米国は破産手続きさえデジタルで済むのに…

話は2001年にさかのぼるが、粉飾会計で破綻した米国のエネルギー企業、エンロンのことを作品に書いていたとき、米国の進んだデジタル化にはっとさせられた。エンロンは同年12月2日、チャプター11(連邦破産法11条)の適用をニューヨーク州南部地区連邦破産裁判所に申請したが、申請手続きは電子だった。

かたや日本は、その22年後の現在も裁判所への破産申し立てはすべて紙で、破産手続開始申立書、取締役会議事録、委任状、債権者一覧表、財産目録、直近の貸借対照表と損益計算書、従業員名簿・賃金台帳、預貯金通帳の写し、不動産登記簿謄本など、山のような書類を物理的に裁判所に持ち込まなくてはならない。

英国では税務関係の手続きもすべて電子化されている。筆者は12年くらい前に税務調査を受けたことがあるが、その際も手続きはすべてデジタルだった。日本では、税務署の職員が物理的に訪ねてくるが、英国では最初に税務調査の通知の手紙が来て、該当する年度の申告関係の書類(すべての領収証を含む)を全部スキャンしてeメールで送る。その後、先方でそれを精査し、いろいろ質問が来て、経費として認めるかどうかの議論を戦わせる。

だから最速でワクチン接種も進められた

筆者の場合、過去6年間分の取材費のある項目が経費として認められないので、円に換算して1000万円くらい追徴すると言われ、数カ月にわたって事情説明(反論)を行い、最後は言い分を認めてもらった。この間、やりとりはすべて電話とeメールである。行政の経費節減で税務署の人員も減らされているらしく、一度説明すると返事が来るのは2カ月後くらいで、応酬はだらだら続き、精神的には疲れたが、税務署に出向いたりする必要はなかった。

英国政府の動きを見ていると、可能な限り行政サービスをデジタル化しようと考えていることが分かる。各種免許の申請、不動産登記簿の閲覧、年金保険料の払い込み記録の確認、自治体への植物性ゴミの回収依頼と料金支払いなど、あらゆることがデジタル化されている。

最近では、新型コロナ・ワクチンの接種に関し、まだ世界のどの国でもワクチンの開発が終わっていない2020年の秋には接種プログラムのロジスティクスを確定し、デジタルの予約システムを構築し、先進国の中で一番早い同年12月に接種を開始した。その後は、基礎疾患の有無や年齢にしたがって一気呵成かせいに接種が推し進められ、エリザベス女王、ウィリアム王子、ジョンソン首相、ハンコック保健相(いずれも当時)なども年齢の順番にしたがって接種を受けた。