ネットで最低限の個人情報を入力するだけ

英国に住んで35年になるが、徹底した行政のデジタル化でコストを削減し、事務を効率化しようという英国政府の姿勢には常々感心させられている。

筆者は今年66歳になるので、つい先日、英国の国家年金の受給手続きをしたが、ものの5分で済んだ。受給開始の数カ月前に「Get Your State Pension」という2ページのごく簡単な案内状が送られてきて、そこにパスワードが書いてある。それを使って政府の年金受給のサイトに入り、生年月日、連絡先、配偶者、英国以外で働いた国、銀行口座などを入力すれば完了である(英国以外で働いた国を申告するのは、一部の国が英国と社会保障に関する条約を結んでいて、当該国で働いた分、年金が増えるため)。

一方、筆者が3年前に日本の年金の受給手続きをしたときは、20ページもの書類に記入し、銀行預金の取引明細のコピーなど、いくつかの書類も添付し、郵送しなくてはならなかった。そのうち送った銀行預金の取引明細について年金事務所から「あなたの名前が入っていないから、本人の口座かどうか確認ができない。名前の入ったものを送ってほしい」と言われた。

確定申告の書類
写真=iStock.com/Junichi Yamada
※写真はイメージです

しかも「メールもファクスも駄目。郵送して下さい」

そもそも本人が自分名義の口座の詳細を受給申請書に記入し、署名もして「ここに振り込んでくれ」と言っているのになぜ取引明細(あるいは通帳)のコピーまで提出しなくてはいけないのか? (英国では口座番号と名義人をサイトに入力するだけである。)

先方の事務担当者に「そもそもおたく(日本年金機構)は、毎年この口座から保険料を引き落としていたんですよ。わたしの口座だと分かるじゃないですか」と言ったら「部署が違うので確認できない」という。仕方がないので、別途先方が望むような取引明細をコピーし、「PDFにしてメールで送っていいですか?」といたら、「メールもファクスも駄目。郵送して下さい」と言う。

「なぜメールが駄目なんですか? PDFで送るのもコピーを郵送するのも同じじゃないですか」と訊くと「以前、外部から不正侵入があったので、外部とのメールは使っていない」と言う。はぁー? である。

当時、コロナ禍の真っ最中で、航空便の減便のため、日本に航空郵便が届くのに1~2カ月かかっていて、いつ届くかも分からない状態だった。仕方がないので、東京の出版社の担当編集者に取引明細のPDFをメールで送り、彼にプリントアウトしてもらって、年金事務所に郵送してもらった。ほとんど冗談のような話だが、これが日本のお役所の実態である(なお、年金事務所の担当者は親切で丁寧な年輩のパートの女性で、彼女自身が、おかしな制度や組織文化のために苦労している様子だった)。