ビジネス作家のブログは政府によって消去

こうした変化について、2022年5月、中国を代表するビジネス作家・呉暁波(ウー・シャオボー)は、ブログ記事「俺たちの国はいったいどうなっちまったんだ?」で、こう書いた。

命を賭けてビジネスに取り組む。貧困から抜け出すことが最初の目的だが、裕福になった後は自分自身への挑戦と社会的責任を果たすことへと目的が変わる。つまり物質的な充足よりも心理的な達成を重んじるようになるのだ。ところが突然、社会的栄誉が剝奪されたならばどうなるだろうか? 創業とイノベーションへの熱意はまたたく間に消えていく。

この記事は、馬雲(ジャック・マー)氏を連想させる資産家「馬某」のエピソードとして、間接的に書かれていたが、あまりに爆発的に読まれたためか削除されてしまった。「政府の怒りに触れた」といわれているが、それだけIT業界の空気は重苦しくなり、不満が溜まっているということだろう。

IT企業への規制は国内経済の停滞を招いた

中国政府の規制は、わが世の春を謳歌していた中国IT企業の鼻っ柱をへし折ることに成功した。だが、その結果、想定以上にIT業界が勢いを失ってしまった。コロナ禍による景気後退もあいまって、IT業界ではリストラも始まった。中国経済の立て直しが求められるなか、高成長産業の代表であるIT業界がボロボロでは回復は容易ではない。

2021年10月20日、中国アリババ・グループの共同創業者で前執行会長のジャック・マー氏が、自身の豪華ヨットを停泊させているスペインのマヨルカ島サンタポンサに姿を現したとアリババ傘下のサウスチャイナ・モーニング・ポストが報じた。
写真=AFP/時事通信フォト
2021年10月20日、中国アリババ・グループの共同創業者で前執行会長のジャック・マー氏が、自身の豪華ヨットを停泊させているスペインのマヨルカ島サンタポンサに姿を現したとアリババ傘下のサウスチャイナ・モーニング・ポストが報じた。

習近平総書記は2021年8月に「共同富裕を着実に推進する」と題した講話を行ったが(雑誌『求是』2021年20期に掲載)、「資本の無秩序な拡張には断固反対する。敏感な領域については(企業の参入を禁止する)ネガティブリストを作成する。独占禁止の管理監督を強化する」と、IT企業規制の方針を示しつつも一方で、「同時に企業家の積極性を引き出し、各種資本(国有資本と民間資本)の秩序立った健康的発展を促進しなければならない」とも話していた。残念ながら後半の配慮は失敗に終わった。前述の呉暁波が描いたような停滞が訪れてしまったのだ。

ゼロコロナ対策が破綻したこともあって、2022年の経済成長率は前年比3%増にまで落ち込んだ。2023年に復活するためには民間企業家の積極性を復活させることが必要不可欠だ。