リーダーとして活躍するためには、何が必要なのだろうか。慶應義塾大学名誉教授の上山信一さんは「優れたリーダーたちに共通しているのは『洞察力』の深さだ。この力を磨くためには、歴史をひもとき、俗説を疑ってみることが大切だ」という――。
図書館の机に積み上げた本
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リーダーたちに共通する「洞察力」の深さ

私の経営コンサルタント歴は今年で37年になる。合計120ほどの企業や自治体の改革を手掛け、知事に就任して間もない橋下徹氏、小池百合子氏の行政改革の参謀もやった。その上で思うのが、リーダーたちの「洞察力」の深さである。洞察とは、今起きている事象を過去からのつながりから理解し、掘り下げた上で未来を予想して読み解いていくプロセスだ。

例えばマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は、新型コロナウイルスが猛威を振るう前の2015年から「世界で1000万人以上が亡くなる災いがあるとしたらパンデミックだろう」と予見していた。人類の過去の歴史をひもとき、そういう洞察を得たという。

2000年ごろ、公共事業は無駄だ、削減しろという声が全国に吹き荒れた。私も見直しを提唱する改革派のひとりだったが、同時に「公共事業はなくならない」と言い切った。巨大国家では必ず地域間に不平等が生まれる。それを埋めるため米国の辺境には軍の基地があり、欧州には手厚い失業手当がある。日本では公共事業で都会と地方の差を埋める。だから公共事業は必要悪で、なくならないと考えた。

当時賛同いただいたのは経済学者、竹中平蔵氏だった。同氏は「公共事業は形を変えた都会から地方への仕送りだ」と。その後どうなったか。公共事業は民主党政権の頃には少し見直しされたものの、依然、なくならない。

米国知識人は米中対立が洞察できなかった

折しもハイテク景気から一転してウクライナ戦争となり、急に先が見えなくなった。ますます将来への洞察力が問われる時代だろう。では、どうやって洞察するのか。まずお勧めしたいのは、歴史をひもとくこと、そして俗説を疑うことの2つだ。

例えば中国。かの国の壮大な歴史をひもといてみよう。すると今日の米中新冷戦時代の到来がある程度は洞察できたのではないか。しかし米国の知識層にはそれができなかった。

彼らは中国を帝国主義の餌食になったアジアの発展途上国と同類と捉えていた。だから中国も豊かになれば人々は衣食住や経済に飽き足らず、必ず自由と民主主義を求めるはずと予測した。しかしこれは大きな間違いだ。近世以降の歴史をひもとけば、中国はふつうの発展途上国とは成り立ちが全く異なることがわかる。

中国は今も昔も大文明国である。中国はかつて明の時代には極めて自由な競争社会を経験し、世界の先端文明のひとつとなった。だがその後の清の時代に、形式主義、儒教的官僚主義に陥ってたまたま停滞した。そこで西欧に目を付けられ、植民地化した。