高い知名度を生かして国政進出した人も
それでは、知事が辞める原因とは何だったのだろうか。前職47人についてみると、死亡・重病が3人、落選が9人、不祥事による辞職が3人(セクハラ、公用車の不適切使用、買春)、自主的な退任が32人である。
自主的な退任の事情はさまざまだが、本人が続投を希望していたケースは数例で、高齢や健康不安によるものが15人ほど、あとは、多選で本人も潮時とみた、他府県出身で東京などに戻りたい、国政に転出したいといったのが理由だ。
そして、結果的に見ると、落選で退任した人も含めて13人が国会議員に転じている。北海道の高橋はるみ、埼玉の上田清司など全県的な知名度を生かして参議院選挙区に出馬するといったケースが多く、最初から将来の国政転出を狙っていたとみられるのは三重の鈴木英敬、高知の尾﨑直道くらいだろう。
東京都知事選には、岩手の増田寛也、宮城の浅野史郎、神奈川の松沢成文、宮崎の東国原英夫が出馬しているが、1983年の都知事選挙における阪本勝(兵庫)を含めて成功した試しはない。
もっと多様な経歴を持つ知事が増えるために
「東大、官僚出身が半数以上」「平均在任は10年以上」「3割が地元出身ではない」といいう知事像はどこから来ているのかについては、今後改めて詳しく論じたいが、主要論点だけ指摘しておく。
東京大学出身者の多さは、官僚が多いことの結果だ。主要官庁の事務官キャリアでは大部分がそうだ。地元出身でない人が多いといっても、ほとんどは県庁などに出向した経験のある官僚で、全国各地の事例もよく知っているし、最近は海外での留学・勤務経験者も多いので、水準以上の仕事はできる。
それでは、なぜ、そのほかの仕事をしてきた人が少ないかだが、県会議員は国会議員が大臣を経験するようなことができない。いわば野党議員がいきなり総理になっても力を発揮できないのと同じことだ。都道府県庁に県議が兼ねられる閣僚に当たるようなポストを創らない限りこの状態は変わらないだろう。
つぎに、県職員など地方公務員がなぜ、知事になれないのか。霞が関の官僚なら、40歳くらいで県の部長に出向できるし、50歳前後で副知事になれることもある。それに対して、県のプロパー職員は、50歳代後半以降でないと部長になれないし、副知事になれるのは60歳くらいだ。年功序列にこだわらない抜擢制度をつくって、キャリア官僚並みの年齢で幹部になれない限り現状は変わらない。
国会議員や市長は、知事選に立候補するために現職を辞職しなければならないことが壁になっている。知事との兼任を認めるとか、当選したら辞職する制度に変えたらもっと候補者は増えるだろう。
現状は、行政経験と東京とのつながりを兼ね備えた官僚が無難だからと重宝される傾向にあり、それが安定的な地方行政につながっていると言える。しかし、地方自治を面白くするためには、もっと多様なバックグラウンドを持つ知事が増えたほうがいい。年功序列や議会、選挙制度といった旧来型の枠組みを変えていく必要があるのだ。そのあたりの具体的なプランは、また、回を改めて論じたい。