最高のほめ言葉を言える人は強い

余談になりますが、映画監督の山田洋次氏がインタビューに答えていた言葉が印象的でした。彼は演技に関して大変こだわりを持ち、出演者に対してとても厳しい要求を出すことで有名な監督です。

彼は「どんなことを大切に考えながら、演技指導をするのですか?」という問いに対して、

「どこでほめようか、いつも考えています」

と答えているのです。この言葉には、雷に打たれたようなインパクトがありました。

厳しい要求を出す中でも、彼は「この俳優はどこがすばらしいのか」「あの女優は、どの表情が一番きれいに映るのか」「どのように自分が関われば、さらにすばらしさを引き出すことができるのか」を、常に考えているわけです。

もちろん、監督は、そう易々とはほめません。おそらくは、一本の映画を撮る膨大な行程の中で、たった一度か二度ほどなのでしょう。

林恭弘『「落ち込みグセ」をなおす練習』(総合法令出版)
林恭弘『「落ち込みグセ」をなおす練習』(総合法令出版)

しかし、その瞬間のひと言は、心の込もったひと言であり、俳優が最も自信を持てる表現で伝えられるのだと思います。

簡単にペラペラとほめろとは言いません。ほめるにしても、叱るにしても、その相手に対して尊重と愛情、未来への期待がなければ、どのような言葉をかけようが無意味なのです。

「どこでほめようか、いつも考える」ことは、尊重と愛情、未来への期待の表れです。

そのため、叱ったときにもその真意が相手には伝わります。

そして、ほめるのは1年に1回になったとしても、それでいいのです。その瞬間は、一番その相手が輝く言葉で、最高のタイミングで紡ぎだされる「ひと言」になるはずです。

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