中国は3月5日からの全国人民代表大会で政府の新陣営を確定した。外交も内政も大きく動き出すだろう。外交の第一手は習近平(シー・チンピン)国家主席のロシア訪問だ。
中ロ間には数々の歴史的因縁があるが、これまではロシアのほうが優勢だった。16世紀末、モンゴル支配から抜け出したロシアはウラル山脈を越え、シベリアに進出。1860年の北京条約で今のウラジオストクまでの支配を清朝にのませた。以後、革命で一時力を失ったものの、新国家ソ連は国民党に取り入って影響力拡大を図る。
1949年に中国共産党が建国しても、スターリンは日本から奪還した満州を中国に直ちには渡さなかった。50年からの朝鮮戦争ではソ連軍を出さず、中国に圧力をかけて義勇軍を参戦させた。しかし56年のフルシチョフによるスターリン批判後、中国はソ連と路線闘争を始め、69年には国境をめぐり両国軍が武力衝突を起こした。
無用な中ソ・中ロ対立に終止符を打ったのがプーチンで、彼は2001年7月に中ロ善隣友好協力条約を、04年10月には国境協定を結んで境界を画定させた。
習近平にとってプーチンは、大統領4選を実現した仰ぎ見るべき兄貴分だ。08年ジョージア、14年クリミア、15年シリアで軍事侵攻・介入を成功させ、アメリカの鼻を明かす。情にも厚く、世界中から総スカンを食らった22年の北京冬季オリンピックの開会式にわざわざやって来てくれた。
中ロの上下関係が逆転した
しかし、この400年余りロシア優位で推移してきた中ロ関係は、今われわれの眼前で中国優位に変化している。GDPで中国はロシアの約10倍、極東方面では軍事力でも大差をつけている。
「習近平が訪ロすれば、権威主義大国同士の『神聖同盟』が成立する。この同盟は、グローバルサウスを従えて、西側の自由・民主主義・市場経済を邪魔する大勢力となる」という声があるが、それは中ロの力を過大評価している。中国とロシアのGDPは、アメリカ、日本、韓国、オーストラリアの合計の3分の1程度でしかない。
世界に展開できる軍事力で、中ロはアメリカに大きく劣る。人民元が国際基軸通貨になると言う者もいるが、中国が国際資本取引を自由化せず、人民元への規制を大きく残す現状ではあり得ない。ドルは「便利で得になる」から皆使っているのだ。