出産と同時に見つかった腫瘍は悪性のがんだった
前職ではWebプロデューサーとして、働く女性向けメディアを手がけ、編集部のメンバーには「社畜の海野P」と呼ばれるほどの仕事人間だった。33歳で結婚、その後さらにキャリアップをめざして、メルカリへ転職。新規プロジェクトの立ち上げを任され、半年経った頃に妊娠がわかった。産休を取ってもすぐ戻るつもりでいたが、それはかなわなかったのだ。
妊娠8カ月を迎えた頃、海野さんはひどい腰痛に悩まされ、左足も痛んで歩けなくなった。寝ていてもツラく、1カ月ほど不眠が続く。形成外科の医師には「おそらくヘルニアを併発しているかもしれない」と診断されたが、妊娠中でレントゲンを撮れず、臨月まで安静にし、帝王切開で出産することになった。
2018年8月、無事に女の子を出産。だが、医師から「お腹を開いたとき、左腹部に腫瘍のようなものを確認した」といわれる。細胞診で「悪性」と判明、それも「原発不明の硬膜外悪性腫瘍」と告げられた。原発不明というのは、どこから発生したかわからないという意味で、突発的に癌細胞が現れるという非常に希少ながんだという。
「どんな抗がん剤が効くのか、どういう治療法があるのかもわからない。腫瘍の大きさは14センチ以上あり、すでに背骨に浸潤しているので切除もできない。『抗がん剤を打つしか手段がないでしょう』といわれた時は本当に絶望し、心から悲しい気持ちになりました」
告知を受けて最初に思ったのは、「私が死んだら、この子は誰が育てるの?」。薬は母乳に影響するため、海野さんは痛みに耐えながら、授乳を続けていたが、あまりのツラさに1カ月ほどであきらめた。まずは鎮痛剤を使って痛みを和らげ、精神的にガンに負けないこと。そして退院後は子どもを乳児院に預けて、自分は治療に専念することを選択した。