社員を気持ちよく気絶させよ

上田は「ここでは会議用資料はゼロ、そしてテーマも設定しません。仕事での悩み、上司や組織への不満、前向きな改善提案等々、何でもありです。ここでの内容は上司には伝わりませんから、面白い意見もばんばん出てくる。いいものは、直ちに社長決裁で具体化していくんです」と話す。

その好例が“フライドチキンの夜割”だ。若手のスーパーバイザーが「前年比10%増が目標になっていますが、私なら30~40%伸ばせます」と切り出した。聞いてみると、加盟店では夜遅くなると、昼間より売れ行きが鈍るフライヤー(店内用揚げ物調理器)を、さっさと片付けてしまう。

そこで生じる機会損失は、塵が積もるように増え、売り上げ目標にも届かない。そこで彼は「本部負担による50円引きでの販売」を提案。しぶる本部の姿勢を横目に、1週間後にはポップも作られ、全店の売り上げ増に貢献した。「勝ち残る企業とは、ボトムアップとトップダウンが噛み合った会社だ」という上田の考えが結実したものとなった。

だが、すべての社員が積極的に発言・提案するわけではない。ダイレクトミーティングは、基本的に全員発言を義務づけているが、どうしても人前での話が苦手な社員もいる。まして社長の前ではなおさらだ。そんな人たちには、6時からの懇親会が待っている。そこでも上田は、もっぱら聞き役だ。

「アルコールの力を借りてもいいんですよ。酒が入って緊張の解けた社員の話にゆっくりと耳を傾けます。ところが、よくよく聞くと、仕事停滞の責任をよそに転嫁している場合もあります。『誰それが、自分の提案をいくら言っても実行に移してくれないんです』と訴える社員は多かった。そんなときは、『よくわかった。君の愚痴はきちんと聞いた。しかし、それは君が実行に移せばいいだけの話だろう』と一喝するわけです」

時には商社マン時代の体験も語る。20代の頃、上田の平均睡眠時間は3、4時間しかなかった。担当した食肉という業界の商談は深夜におよぶのがあたりまえ。しかも、全国を飛び回るため、土日は移動で潰れたという。

社員の提案が数字をともなって大成功をおさめたときは、大げさとも思えるぐらいに賛辞を送る。

「天井の低いところで、その社員を胴上げするんです。天井スレスレのところまで高く放り上げ、最後は地面に叩きつける。社員が気持ちよく気絶してくれたら最高でしょ(笑)」

最後の気絶のくだりは、上田のリップサービスだと、広報は訂正するが、上田のはっきりしたわかりやすい賛辞は、社員の努力すべき方向を明確にし、一つにまとめた。以前では、リーディングカンパニーのものまねにすぎなかったファミリーマートの陳列だが、いまでは他社が追随することも多くなったのだ、と上田は誇らしげに笑う。

覇気のない草食系社員をどう扱うかと問うと、「自分のモットーを伝える」という答えが返ってきた。手垢のついた言葉かもしれないが「元気、勇気、夢」である。そして「仕事が辛いときほど、寝る前に3回、朝起きたらまた3回、大声で唱えて出社しなさい。すると顔つきや姿勢が変わる。周囲の見る目も違ってくるよ」と激励するのだ。叱咤し、励ます。それが上田流のやり方だ。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(岡本 凛=撮影)
【関連記事】
100冊の小説本は、100回の人生にも勝る:ファミリーマート社長
店を巡って知った「所説之心」 -ローソン社長・CEO 新浪剛史【1】
ローソン流「ダイバーシティ採用」
最高益ラッシュのコンビニに押し寄せる再編の波
480万人 -小型スーパーVSコンビニ「買い物難民」を掴むのは?