女性に向けられる「少しくらい余分に歩け」の声
こうした深刻な懸念に逆行するかのように、ユン政権は女性の立場向上策の廃止へ舵を切った。BBCは、小・中学校、高校などの教育カリキュラムから「男女平等」の言葉を削除し、今後は女性家族省についても閉鎖したい意向だと報じている。
ユン政権はその閉鎖によって男性層の人気を得ようとしているが、国内の優先課題である経済政策への実効的な効果には疑問符が付く。記事によると、女性家族省による支出は、韓国国家予算のわずか0.2%を占めるにすぎない。
それでも政権が閉鎖を強行するのは、女性を敵視する男性層の心理に訴えたいためだ。韓国では若い男性を中心に、困窮する女性たちの立場を理解するどころか、対立的な姿勢を示す動きが加速している。
BBCは、20代の韓国男性の90%近くが、アンチフェミニスト、あるいはフェミニズムの不支持を表明していると報じる。女性用駐車スペースをめぐり、ある男性はBBCの取材に応じ、「こうしたスペースは、男性への差別です」と不満を口にしている。
「100メートル余分に歩いたところで安全が脅かされることはありませんし、最近では駐車場のあちこちに防犯カメラがありますから」
男性たちの不満を利用するユン政権
なぜ韓国の男性は、同じ国の女性を敵視しているのだろうか。米タイム誌は、経済不安に悩む若い男性の怒りの矛先が、不当に女性に向けられていると分析している。伸び悩む給料に対し、韓国の家賃は過去5年間で2倍以上にまで高騰し、若者たちは先の見えない将来に不安を募らせているという。
女性の状況にまで気を回す余裕はなく、一部にはまるで男性が犯罪者予備軍のように扱われていると、不満をあらわにする男性もいるようだ。
男女間の対立は深まるばかりだ。米ハーバード大学系列の有力政治紙であるハーバード・ポリティカル・レビューは、韓国で「フェミニズムは新たなFワード(禁句)」になったと指摘している。
記事は、20代の若い男性たちが、公約を果たさない政治家、高騰する住宅価格、賃金の停滞などに「幻滅」しており、「問題の原因となっている対立集団として若い女性たちをスケープゴートにする」流れが活発になったと指摘する。
「若い男性たちは、長年続く失業や制度への怒りを発散させる先を求めており、自分たちを悪意ある『性の逆差別』の波にのまれた犠牲者と位置づけている」との分析だ。
同誌はまた、ユン政権がこの状況を意図的に利用しているとも論じている。「この状況にあってユン氏は、同国の男女平等・家族省の廃止を公約に掲げることで、こうしたターゲット層から広範な支持を取り付けたのだ」
タイム誌も同様に、反フェミニズム政策は若い男性の不満のはけ口として機能していると分析している。