「在日中国人」は成熟しすぎた
――安田さんといえば、大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞した『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)や『性と欲望の中国』(文藝春秋)など、中国ライターの印象が強いですが、最近は在日ベトナム人をよく取材されていますね。
【安田峰俊】もともと2014年あたりから在日ベトナム人には目配りしていましたが、大きな要因はやはりコロナです。2017年に習近平第二期政権が成立してから、中国本土で政治的な社会問題に触れる取材をすることがいっそう難しくなりました。ただ、中国本土に行かずとも、香港なり台湾なり、もしくはアフリカなど海外の華人社会をウロウロしていれば全然問題はありませんでした。
でもコロナ禍が起きて、そもそも海外に渡航できなくなりました。なので、国内取材にシフトしなければならなかったのですが、当時の僕にとって在日中国人は、正直に言えば「いまさら」面白いと感じる対象ではなかったんですよね。
――「在日中国人」が面白くないとは、どういった理由からでしょうか。
【安田】私が彼らを見慣れすぎていて、サプライズがない(笑)。また、ある意味、彼らはもう成熟してしまったんです。20~30年前だったら、日本で大金を稼ぐために必死になる中国人がたくさんいました。その副作用として、犯罪が起きることもあれば、うさんくさい訳の分からない行動をおこなう人もいました。
全人民が豊かになったわけではありませんが、中国という国家がそれなりに豊かになり、彼らが変なことをしなくなったんです。気付いている人は少ないですが、2020年から在日外国人の犯罪件数は国別で見るといまやベトナムがトップなんですよ。
もちろんゼロではないですが、以前と比べて中国人が変なことをしなくなった。犯罪にしても知能犯めいたものばかりで、カオスさは感じにくい。そうなってくると、まさに30年前ぐらいの中国人のポジションが、今はベトナム人に置き換わっているんです。