犯罪だと知らずに罪を犯しているケースも

――たしかに、日本人の感覚からするとあり得ない行動パターンですよね。「ボドってる」行動の傾向というか、ボドイに共通する特徴はあるんでしょうか。

【安田】基本的には何も考えていないボーっとした人が多いです。彼らは後先を考えずにとりあえず技能実習生になり、事前にものを調べず日本に来たらあまりの低賃金にがっかりして、再び後先を考えずに逃亡する。そして、バクチで借金を作って犯罪に巻き込まれたり、何も考えずに無免許運転をおこなって人をはねたり電車を炎上させたりしている。明確に「俺を搾取した日本社会に復讐してやろう」とか思っているわけではありません。なにも考えていないがゆえに大事件が起きる。

――列車衝突事故の状況を見ると、想像力があまりにも欠けているなという気もしました。

【安田】社会主義圏かつ発展途上国となると、どうしても教育環境が整っていないという印象があります。逃亡した技能実習生を見ていて思うのは、自分に不都合なものも含め、いろんな情報を自分の頭で考えて判断し、論理的・構造的に考えることが難しい人が多いということです。

また、基本的に遵法意識が低いという問題もあります。これには2つのパターンがあって、1つは「これは悪いことだ」と分かってやっているパターン。もう1つは、「これが犯罪だとわからずに」やっているパターンです。

――後者のほうがより厄介かもしれません。

ベトナムだったら逃げたほうが得

【安田】たとえば、他人が所有する山に勝手にわなを仕掛け、野生のイノシシを狩って、それを車に積んで帰り、自宅でかっさばく動画をFacebookやTikTokにアップして、その肉を第三者に販売した場合です。不法侵入、わなの無免許設置、鳥獣保護管理法違反、と畜場法違反、食品衛生法違反……と、一体いくつの罪状がつくのか。

もちろん、彼らがイノシシの輸送に使う車は、Facebook上で買った車検も何も通ってない車体で、言うまでもなく無免許運転です。しかし、ボドイはこれらの一連の行動について、それが深刻な犯罪に該当するとはほとんど自覚していない。

おそらく彼らがこれまで過ごしていたベトナムの農村地帯では、いつ買ったかもわからないようなボロボロの車で他人の山に入り、鹿やイノシシを狩るくらいは、そこまでおかしくないことのはずです。

2020年11月、埼玉県本庄市。盗難されたとみられるブタを、ボドイたちが風呂場で解体したアパート。解体の当事者たちは逮捕されていたが、残った同居人に話を聞くことができた。ボドイ・ハウスのなかでも際立って不衛生的で、ブタの内臓が腐った匂いとともにゴキブリの幼虫が大量に繁殖していた。
筆者撮影
2020年11月、埼玉県本庄市。盗難されたとみられるブタを、ボドイたちが風呂場で解体したアパート。解体の当事者たちは逮捕されていたが、残った同居人に話を聞くことができた。ボドイ・ハウスのなかでも際立って不衛生的で、ゴキブリの幼虫が大量に繁殖していた。

――日本に置き換えれば、田舎のおじいさんが川でフナを釣るくらいの感覚かもしれませんね。日常の営みです。

【安田】ええ。ほかに「責任感の薄さ」もあるでしょう。常磐線に無免許車を突撃させたまま放置して、脱線炎上を招いた事件も、当事者の責任感や、後先を考えて行動する意識はかなり薄いですね。論理的な考えができる人であれば、線路内に車で突っ込んだときにできるだけ被害が大きくならないように努力する責任を感じる。証拠隠滅して逃げたりすれば逆に罪も重くなるので損をするとか、日本の司法とか警察を相手にしたらどうせ逃げても捕まるんだし、認めてしまったほうが逃げるよりはマシになるという判断もする。

でもボドイにはそういう認識がないわけですよ。彼ら自身の視野の狭さに加えて、母国のベトナムの社会であれば「逃げたほうが得」というケースもある。日本人なら当たり前のように持っている解釈を、ベトナム人労働者の一部は、まるで共有していないんです。もっとも、そういう人たちだから賃金が安くても済むわけで、彼らをわざわざ呼び寄せているのは、日本の側なんですけどね。