死ぬのはプランではない、生きるために住み替えを
以下は後藤さんと筆者のやり取りの一部である。
【後藤】「今ある貯蓄が底を突いたら、自分は死ぬしかない」
【畠中】「ご実家を売却して、マンションに住み替えれば、おそらく手元に数千万円を残せますよ」
【後藤】「でも、祖父の代から住んでいる家を売ったら、父にも祖父にも申し訳なさすぎます」
【畠中】「お父さまもおじいさまも、後藤さんが餓死するほうがずっと悲しまれると思いますよ」
【後藤】「でも、他の場所に住んだことがないから、新しい場所で暮らせる自信がないんです」
【畠中】「今のままの生活では、貯蓄があと4年くらいしか持たないと思います。今より貯蓄が減ったら、精神的にさらに追い込まれると思いますので、1~2年くらいで住み替えの決断をしたほうが良いと思いますけれど……」
【後藤】「でも、私は人よりたくさんの本を持っていて、それらはできるだけ手放したくないんです。ですが、自分の力では、本をすべて収納できるようなマンションを手に入れることはできないと思います。だとしたら、今の家で餓死したほうがいいんじゃないかなという気がするんですが……」
【畠中】「購入するマンションのエリアを広範囲に広げてもいいのなら、本をすべて収納できるようなマンションを購入することも可能ですよ」
【後藤】「私はマンションで、ひとり暮らしができると思いますか?」
【畠中】「できるか、できないかではなく、後藤さんの場合は、するしかないと思います。住み替えれば、手元資金が増えて精神的に楽になるだけではなく、この先、働くことを考えなくても、生活が成り立ちます。美味しいものを食べたいといった、生活の質を上げるようなことも考えられるようになるかもしれません」
何度も上記のようなやりとりを繰り返し、徐々に住み替えを受け入れてくれるようになってきた後藤さん。そこで、支援団体と付き合いのある不動産会社に、購入を検討できそうな中古分譲マンションの物件リストを作成してもらうことにした。
最初に届いた物件リストは、一緒に内容を確認したところ、「築年数が古すぎる」「(マンション内の)戸数が少なすぎる」「角部屋の物件がない」などの理由で、再度、物件リストの作成依頼をすることに。
1回目に受け取った業者の物件リストには、築年数が30年を超えているような物件が多く、後藤さんが80代になる頃には、建て直しの話が具体化してしまう可能性がある。他人と話すことが苦手な後藤さんにとって、建て替えの話し合いが進むと、うつ状態が進行してしまうリスクがある。
また、戸数が少なすぎるマンションは、大規模修繕などの費用が割高になる可能性がある。さらに音に敏感な後藤さんにとって、隣の部屋と接していない部屋がほしいので、角部屋を優先して探してほしいという希望を出した。