格差の原因

2010年の外国人選手を除くNPB選手の平均年俸は3830万円(プロ野球選手会発表)、MLBは301万ドル(当時の為替レートで2億5000万円)、その差は6.5倍だったが、2022年はNPBが4312万円に対し、MLBは441万4000ドル(現在の為替レートで5億6000万円)、その差は13倍になっている。

昨今の円安が、年俸格差を広げたという一面はあるが、それを抜きにしてもNPBの平均年俸がここ12年で12.6%増だったのに対し、MLBは46.6%の増加だ。

今オフのMLB球団による日本人選手の「爆買い」は、為替の問題を抜きにしても、日米の年俸格差は次元が違うレベルまで広がっていると言えよう。

NPBの打者はイチロー、松井秀喜などを除いてMLBで実績を残していない。直近でも秋山翔吾、筒香嘉智が期待を裏切った。メッツがオリックスの吉田正尚と総額123億9000万円もの契約を結ぶのは、ハイリスクではないかと思われるが、メッツにとってはそれほど大げさな投資ではないのだ。もはや「金銭感覚が違う」というべきか。

その背景には、日米のプロ野球チームの構造的な違いがある。

メジャー球団の目的は企業価値の向上

MLB球団は、19世紀後半、アメリカ東海岸で生まれたプロ野球チームが発祥だ。有力チームがリーグ戦を行うようになり「メジャーリーグ」が誕生。1901年からはアメリカン、ナショナルの2大リーグでの興行が始まった。

チームはフランチャイズとする都市に本拠地を構え、試合興行を行う。

球団は当初から独立採算で親会社はない。フランチャイズを重視し、チーム名は本拠地の地名+ニックネームとなっている。オーナー、経営者が変わっても、チーム名は原則として変わらない。

1976年に選手のFA(フリーエージェント)権が確立して以降、有力選手の年俸が高騰したが、経営者たちは観客動員だけでなく、放送権の販売、物販、ライセンスなどビジネスを多角化し、インターネットの普及もあってFA権導入以前に比べてもはるかに大きな収益を上げるようになった。

オーナーの中には、ヤンキースのジョージ・スタインブレナー、ドジャースのウォルター、ピーターのオマリー父子のように何十年もチームの経営を牛耳る名物経営者もいるが、最近は投資家集団がオーナーになって球団の企業価値を高め、転売するケースも増えている。

カリフォルニア州ロサンゼルスにある、MLBのロサンゼルス・ドジャースのホーム球場
写真=iStock.com/Amy Sparwasser
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いずれにしても、球団経営は収益を出して企業価値を高めることを最大の目標にしている。

MLB球団は業績不振になれば、大胆なリストラを行い「解体モード」に一度なったうえで下位球団がドラフトの指名順位で優遇されるシステムを利用して「V字回復」を目指す。

経営者は常にアグレッシブで、新たなビジネスを次々と生み出してきた。

MLBは北米4大スポーツ(NFL=アメフト、NBA=バスケット、NHL=アイスホッケー、MLB=野球)の中でも最もファンの年齢層が高く、他の3スポーツに市場を圧迫されつつあった。座視していては衰退するという危機感もあり、MLB経営者は「ベンチャースピリット」をもって業績の拡大、企業価値の最大化に邁進してきたのだ。