「前例がないので…」9割の避難所に断られた

――水谷さんが段ボールベッドを開発した3.11当時、段ボールベッドの有用性はほとんど認知されていませんでした。水谷さんは大阪から東北の被災地に通って、段ボールベッドを運んだそうですが、避難所や支援団体はどんな反応だったのでしょう。

避難所での雑魚寝は、低体温症や感染症、エコノミークラス症候群、生活不活発病などを引き起こすリスクが高くなります。石巻赤十字病院の医師の方々も雑魚寝をなくして災害関連死を減らすために、段ボールベッドを使用しようと話してくれていたのですが、避難所に持ち込んでもまったく受け入れてもらえませんでした。東日本大震災では、50カ所の避難所をまわりました。無償なので使ってみてくださいと持ち込みましたが、9割は断られました。

――なぜ、断られたのですか?

それは分かりません。しかし、前例や導入の仕組みが行政になかったからでしょうか。

確か震災から2カ月後か3カ月後だから、2011年の5月か6月ころです。ぼくの活動を知った女性の被災者から、段ボールベッドが欲しいと連絡をもらいました。避難所で生活する高齢の両親が、足腰が悪くてしんどい思いをしているから、ベッドに寝かせてあげたいと話していた。避難所で生活する人数を確認し、200台の段ボールベッドをトラックに積み込んで、宮城県多賀城市の避難所に運びました。

しかし避難所の運営者からは「受け入れは難しい」と断られてしまった。結局、苦肉の策で、個人的に持ち込んだことにして、段ボールベッドを設置しました。すると高齢のご両親が泣いて喜びはった。あれは本当にうれしかったですね。困っている人がいるのなら、全員に届けなあかん、と感じた経験でした。

2020年7月、豪雨災害が発生した熊本県人吉市。体育館いっぱいに段ボールベッドが並んでいる。
撮影=水谷嘉浩
2020年7月、豪雨災害が発生した熊本県人吉市。体育館いっぱいに段ボールベッドが並んでいる。

20の被災地で2万3115台のベッドを届けた

――それが十数年も段ボールベッドの普及にたずさわる原動力になったわけですね。

それもありますが、もうひとつは怒りです。

平日はふだんの仕事があるでしょう。だから通常業務を終えた金曜日の夜に、段ボールベッドを満載した4トントラックを運転して徹夜で東北へ向かう。土曜日の朝方、被災地に着いて1日中避難所で活動をして、土曜日の夕方に被災地を出発する。疲れるし、眠いんですよ。

段ボールベッドは被災者の健康被害を予防できるという自信があるから、ぜひとも使ってほしい。それなのに断られるんですよ。災害にかかわり続ける原点には、あのときの怒りがあるからです。

ぼくは東日本大震災以降の10年間で、紀伊半島豪雨、伊豆大島土砂災害、広島土砂災害、長野県北部地震、口永良部島噴火、桜島噴火、常総水害、熊本地震、台風10号、鳥取地震、九州北部豪雨、大阪地震、西日本豪雨、北海道胆振東部地震、佐賀水害、台風15号、台風19号、熊本県人吉水害、熱海土砂災害と20の災害に足を運び、同業者も含めて合計2万3115台の段ボールベッドを届けてきました。訪ねた避難所は、のべ400カ所を超えます。