「自由の代わりに安定をもたらす」プーチン体制

プーチン氏復帰への反発は、ロシア国内でも巻き起こった。下院選挙のあった12月にはソ連崩壊後20年で最大規模の数万人が集会に集った。今まで抗議行動をしたことがなかった市民たちが街頭に出たのだ。

その当時、「20歳のロシア プーチン再び」という企画でデモの様子を記事にした。

このデモは、1990年代の混乱を「自由の代わりに安定をもたらす」という図式で立て直したプーチン体制に、「我々の声を尊重しろ」と市民が立ち上がったものだった。もともとは野党勢力が呼びかけた集会だったが、主役は普通の市民たちだった。下院選では政権批判票として共産党や中道左派「公正ロシア」へ投票した層だ。中道の政権与党「統一ロシア」と民族右派、さらに左派系という現行のロシア政治の勢力図からはこぼれ落ちる、「行き場のない有権者層」だった。大規模集会を許可した当局も、民意の動きを感じ取っていた。

「プーチン出ていけ」の横断幕を手に持つ女性
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民主的な政治を求める中流層

成熟社会の基盤である中流層は、安定した暮らしのもとで民主的な政治を求める。政治学者のラジホフスキー氏は「中流クラスは2000年代の原油高騰期に生まれた。そしていま、政治的に物言う時が来た」と指摘した。こうした中流層は、ロシア国営保険会社の調査では17%とされたが、都市部では3割に達しているとする専門家もいた。欧米では「中流の崩壊」で街頭デモが起き、ロシアでは中流の形成でデモが起きていたのである。

ただし、ロシアはユーラシア大陸に広がる多民族国家だ。中流が育つ都市部と、なお「安定」が優先される地方とでは、地殻変動に時間差があった。集会があった12月10日と翌11日に全ロシア世論調査センターが実施した調査では、大統領選での投票先はプーチン氏が42%。2位のゲンナジー・ジュガノフ共産党委員長の11%を大きく引き離していた。