ほかにも、たとえば「部下の結婚式に出席する。スピーチを教えてほしい」と入力すればそれらしいものを書いてくれるし、「桃太郎の昔話を下敷きにして、現代のロマンチックな話を書いてほしい」と頼めば、それらしい作品ができあがる。これまでのAIとは雲泥の差だ。
世界経済フォーラムが主催する23年1月のダボス会議は、ChatGPTの話題で持ちきりだった。これまでコンピュータが人間の能力を超える「シンギュラリティ」の到来は2045年ごろと指摘されていた。しかし、ChatGPTの登場を目の当たりにして、ダボス会議参加者たちは「シンギュラリティはもっと早まったのではないか」と言い始めている。
ダボス会議から帰ってきた米経済誌「フォーチュン」編集長のアリソン・ションテールは、同誌のカバースートリーに、「The A.I. Meteor Is Coming, and We Are Not Prepared」(人工知能の隕石が接近中であり、私たちは準備ができていません)とタイトルをつけた。要は「まいった。自分はもう要らなくなったのか」というわけだ。
実際、多くのものが要らなくなり、形を変えていくだろう。真っ先に見直しを余儀なくされるのは「学生のレポート」だ。新しいもの好きの学生は、さっそく自分に与えられた宿題をChatGPTにやらせている。
一人ひとりが優秀な秘書を抱えているようなもの
ビジネスパーソンの仕事も変わる。たとえば会議録やその要旨要約、前の会議との整合性のチェックといった作業は、もはや自分でやる必要がない。これまでそれらの業務の助けになる機能を持つアプリケーションはあったが、ChatGPTは対話形式であり、人間の知的活動に近くなった。一人ひとりが優秀な秘書を抱えているようなもので、使いこなせば仕事の生産性は格段に向上する。
マイクロソフトが巨額の投資をしているのも、自社のアプリケーションに組み込むためだ。実はマイクロソフトは19年からOpenAIに投資しており、今回の投資は3回目。すでにマイクロソフト・バージョンの「BingAI」もリリースされている。将来は「今日の会議の内容をまとめて上司にプレゼンしたいから、パワーポイントで資料をつくって」といった使い方も可能になるに違いない。
マイクロソフトによるOpenAIへの投資に焦っているのが、検索で90%以上のシェアを持つグーグルである。現在、知りたい情報についてグーグルで検索をかけると該当するサイトが並ぶが、ChatGPTなら知りたい情報を簡潔にまとめた形で回答してくれる。このままではグーグル検索が使われなくなってしまう。
そうした危機感から、グーグルも23年2月、AIチャットボット「Bard」を「今後数週間のうちに展開する」と発表した。もちろん以前から開発を進めていただろうが、正式リリース日も決まっていない段階で発表したのは、マイクロソフトを意識しているからだ。