日本の酪農はアメリカ産穀物の加工工場
トウモロコシなど穀物の国際価格が上昇して、それを飼料として使う酪農経営が苦しくなっていると報道されている。多くの人は広い草原で草を食むクリーンな牛をイメージして、酪農家にも親近感や同情の念を持つ。しかし、放牧されている牛は2割に満たない。ほとんどはアメリカ産の輸入穀物を主原料とする配合飼料を食べている。土地が広い北海道でも配合飼料依存が高まっている。栄養価が高いので乳量が上がるからだ。
1961年に農林省は“農業基本法”を作った。狙いの一つは、食生活が洋風化する中で、米から、需要が高まる、野菜、果樹、酪農・畜産へ農業を転換させることだった。もう一つは、農家当たりの規模を拡大してコストを下げ、工場労働者と同じくらいまで、農家の所得を向上させようというものだった。
基本法に支えられ、酪農は発展した。60年間で生乳生産は200万トンから760万トンに4倍も増加した。酪農家戸数は40万戸から1万3000戸へ30分の1に減少したので、一戸当たりの規模は実に120倍に拡大したことになる。
しかし、拡大の仕方がイビツだった。規模を拡大するために、草を食べる反芻動物である牛の飼養頭数を増やすなら、草地を増やさなければならない。それが困難な都府県では配合飼料を与えるようになった。
北海道では、草地面積は、1960年の6万3000ヘクタールから1995年に54万ヘクタールに増加した。しかし、その後減少し続け、2020年には50万ヘクタールとなっている。1980年代後半以降、北海道も、配合飼料の使用量を増やすことで、飼養頭数を拡大した。手っ取り早く収益を上げられるからだった。これによって、北海道の酪農収益も、トウモロコシ価格と連動するようになってしまった。
日本の飼料産業は、輸入トウモロコシなどに飼料添加物を加えた“配合飼料”を製造し、畜産とともに大きく発展した。原料のトウモロコシは関税なしで輸入しているのに、なぜか配合飼料価格はアメリカの倍近くもしている。JA全農はアメリカ・ニューオーリンズに巨大な穀物エレべーターを所有し、アメリカ産穀物を大量に日本に輸出している。日本の酪農品や畜産物はアメリカ産穀物の加工品である。本籍はアメリカだ。これがJA農協が広告する“国産国消”の姿である。
100頭以上の乳牛がいると平均所得は4000万円以上
乳価が上昇したうえ、北海道の生乳生産量は、バター不足が問題となった2014年の381万トンから2021年は427万トンへ、全国は733万トンから765万トンへ増加している。
乳価も生産量も上昇したのだから、価格に生産量を乗じた売上高は増加した。また、酪農家の副収入であるオス子牛価格は、通常3万~5万円ほどだった。それが牛肉価格の高騰で、2016年から最近まで10万円から15万円と過去最高水準の高値で推移してきた。
酪農家の平均所得は2015年から2019年まで1000万円を超えて推移している。最も高かった2017年は、酪農家の平均で1602万円である。この年100頭以上の牛の乳を搾っている階層は、北海道で4688万円、都府県で5167万円の所得を上げている(農林水産省「農業経営統計調査」)。つまり、酪農経営は数年間バブルだった。そのバブルが昨年はじけただけなのだ。
穀物の国際価格の上昇もオス子牛価格の低下も、国が招いたものではない。
輸入飼料依存の経営を選択した酪農家が、輸入穀物が安く平均的な酪農家でも国民の平均所得の3~4倍を稼いでいた時には黙って、穀物が高くなると苦しくなったといって国民(負担するのは納税者)に助けを求めるのは、フェアではない。これに補塡するのは、株式投資で失敗した人に損失補塡するのと同じである。
日本の乳価は欧米の3倍、1頭当たりの乳量も世界最高水準だ。それなのに、1年だけの飼料価格上昇で離農者が増加するなら、今の酪農は見直すべきではないのか。輸入穀物依存の酪農は、輸入が途切れる食料危機の際には壊滅する。食料安全保障上、何の意味もない。大量の糞尿を穀物栽培に還元することなく国土に窒素分を蓄積させている。経済学的には保護ではなく課税すべきだ。