バター不足を招いた農林水産省による輸入制限
当時、日本ではバターが足りなくなったが、世界では余っていて価格も低迷していた。国内の不足分を輸入しようと思えば、安い価格でいくらでも輸入できた。
それが輸入されなかったのは、制度的にバター輸入を独占している農林水産省管轄の独立行政法人農畜産業振興機構(ALIC)が、国内の酪農生産(乳価)への影響を心配した農林水産省の指示により、必要な量を輸入しなかったからである。なぜ農林水産省はALICに輸入させなかったのだろうか?
バターを間違って過剰に輸入して余らせると、それを国内で余っている脱脂粉乳と合わせて加工乳が作られる。牛乳市場で加工乳を含めた供給が増える。これだけでも価格の下げ要因となる。
さらに、問題を複雑にするのは、農林水産省の制度によって、生乳価格は一物一価ではなく、バターや脱脂粉乳の原料となる「加工原料乳」の価格は「飲用牛乳向け」の価格より33%も安いことだ。このため、もともとは加工原料乳を原料とする加工乳のコスト・価格は飲用牛乳より安くなる。安い加工乳が多く出回ると、飲用牛乳の価格も下げざるをえない。
当然乳業メーカーは乳価の引下げを酪農団体に要求する。そうなると、酪農団体や農林族議員は農林水産省にバターを輸入しすぎたせいだと批判する。かれらの気分を害すると出世できなくなることを恐れて、役人は十分な量のバターを輸入させない。酪農団体も乳製品の輸入に反対し続けてきた。
ALICではなく自由な民間貿易に任せていれば、十分な量が輸入され、バター不足は起きなかった。結果的に多く輸入されても、バターや生乳の価格が下がるだけで消費者は困らない。
「生乳廃棄」は酪農団体が自ら招いた問題
脱脂粉乳の在庫が増大し、生乳を廃棄したり、生乳生産を減少したりしなければならなくなったことを、酪農家は国の場当たり的な政策のせいだと言う。
バター不足の後、農林水産省は、バターの供給が足りなくならないよう、酪農団体に生乳生産増加を指導した。バターの需給が均衡すると、脱脂粉乳が過剰になり在庫が増大した。そこで今度は減産を指導している。
脱脂粉乳が過剰にならないようにすれば、国産ではバター全てを供給できないので、不足分を輸入すればよい。しかし、輸入には酪農団体が反対する。このため、農林水産省がバターを全て国産で供給できるよう生乳生産増加を指示した結果、脱脂粉乳が過剰になったのである。
酪農家なら、乳製品の需給関係も理解すべきである。増産と減産を繰り返したくないなら、一定量のバターの輸入を認めるしかない。自らの政治活動が生乳廃棄、減産を招いたのだ。