生産過剰なのに上がり続ける生乳価格
生乳価格(飲用向けと加工原料乳を加重平均した総合乳価)は2006年以降大きく上昇している。
さらに2022年11月には、酪農団体と乳業メーカーの交渉で決まる飲用牛乳向けの乳価が1キログラム10円、8.3%引き上げられた。バター用など加工原料乳の価格も10円、12%引き上げられた。加工原料乳への政府補給金も、同年12月4.3円、5.2%引き上げられた。デフレと言われる時代に、乳価は2007年に比べ5割も高い。負担しているのは消費者である。現在、酪農団体はさらなる引き上げを要求している。
過剰なのに価格が上がるというのは、農産物需給についての通常の経済学では説明できない。それなら市場外で何か別の力が働いているはずである。
農政は似たようなことを経験している。食管制度時代の米価である。この時、政府は生産者から米を買い入れ、その際の価格を政治的に決めていた。JA農協の大政治運動で米価を上げたので、米の過剰が生じ減反政策を実施せざるを得なくなった。しかし、生産を減少させる減反政策を行いながら、生産を刺激する米価引き上げを同時に行っていたのである。このときは、一定の米価を前提として、それを維持するよう生産を減少・調整した。農産物市場で供給が変化するなら、価格が変動して需給を調整するのに、この場合は価格を固定して数量で調整したのである。
価格を維持するために量を調整している
生乳の価格決定は、乳業メーカーと生産者団体の連合体との交渉で行われる。その舞台裏で、どのような動きがあるのか、部外者にはわからない。しかし、乳業、酪農、農林水産省、農林族議員は、利益共同体である。乳価交渉で、乳業メーカーが政治的な意図を忖度しないとは言えない。かれらは、バター不足の際の農林水産省の行動を理解できたはずだ。
まず乳価水準を決める。乳業メーカーは、生産した脱脂粉乳等の在庫を調整することで、脱脂粉乳等が過剰に供給され、その価格が低下しないようにする。今回も脱脂粉乳は過剰となって在庫が増えているのに、価格は下がっていない。これは極めて重要なポイントである。
乳業メーカーとしては、過剰在庫による倉庫料の負担を減少しようとするなら、脱脂粉乳の価格を大幅に引き下げて在庫を一掃すればよい。安い脱脂粉乳から無脂肪乳や低脂肪乳などの加工乳が安く作られる。安価な加工乳の需要が増えれば、飲用牛乳の価格も下げざるを得ない。そのときは生乳価格(乳価)を酪農団体と交渉して下げればよい。