感情を無理に取り繕うのではなく認める

誤解されがちですが、感情コントロールは、感情を抑圧することではありません。感情を殺すのではなく、むしろ感情を上手に生かし、豊かな感情生活を送ることです。

怒りや悲しみ、恨みや妬みなどのマイナス感情を、いけないものだとして抑圧すると、それは無意識の中に逃げ込み、さまざまな悪さをするようになります。

オフィスのパートナーとの交渉会議
写真=iStock.com/fizkes
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本書の別の章でも詳しく触れますが、まず自分の中の感情を素直に認めることが大事。

「あぁ、今、自分は怒っているな」「今、自分は悲しんでいるな」「嫉妬しているな」

……など、言葉で自分の気持ちをしっかり感じ、認識してやるのです。

感情を無理に取り繕おうとすると、エネルギーを浪費してしまう――。米国でそのことを証明した実験結果があります。被験者たちを3つのグループに分けて、同じ悲しい映画を観てもらった実験です。

3つのグループとは、

1.どんなに悲しくても感情を表に出さないように指示されたグループ
2.大げさに感情を表に出すように指示されたグループ
3.何も指示されず、普通に見るように伝えられたグループ

の3つです。

それぞれのグループは、映画の前と後で体力測定を受けたのですが、1と2のグループは、いずれも鑑賞後に体力が落ちたのに対し、3の普通に見たグループは、前後で変化がなかったのです。

ここからも分かるように、感情をありのまま素直に受け止めることで、心理的な葛藤を避けることができ、エネルギーも浪費しないですみます。逆に感情を取り繕えば、葛藤が生じ、その結果としてエネルギーを奪うのです。

感情を無理に抑圧したり過大に受け止めること、言いかえると、感情を取り繕うことは、決して感情コントロールではないのです。

むしろ感情コントロールは感情を活用することです。それによってエネルギーの浪費を防ぎ、本来の目標のためにエネルギーを向けることができる。

感情を上手に表現できることこそ、感情コントロールの真髄だと言えるでしょう。

感情コントロール力は誰もが身につけられる

感情コントロール力は仕事の効率や成果に大きな影響を及ぼしますが、みなさんはこれを持って生まれた性格によるものだと諦めていませんか? それは大いなる誤解です。感情コントロール力は誰もが身につけられるテクニカルな「技」です。

先ほどもお話ししたように、私自身、かつては感情に振り回されがちな人間でした。しかし感情コントロールの技法を身につけることで、大きく変わることができたと思っています。

じつは、感情コントロールはマッキンゼーで学んだ問題解決のスキルとよく似ています。詳細は別の記事でも触れていますが、マッキンゼーの問題解決の手順は、そのまま感情コントロールに当てはまるのです。

まず問題解決の手順は以下の通りです。

1.真の問題を見極める

2.問題の構造を把握する

3.仮説を立てて検証する

4.解決策を導き出す

この4つが問題解決の基本的なプロセスです。これを感情コントロールに当てはめると、

1.感情を意識化し、冷静に受け止める

2.感情が湧き起こった問題の構造を把握する

3.どうしたらその問題が解決されるのかを仮説を立てて検証する

4.解決策を導き出す

となります。