解雇規制の改革なき賃上げで国力は低下する

社内で仕事がなくなった人は労働市場に出てもらうことが資本主義のルールである。しかし、日本は業務で省人化しても簡単に社外に出せない。要らない人にも給料を払い続けなければならないので、賃上げの原資もできないし、そもそも企業に省人化を図るインセンティブが働かない。

会社で居眠りする社員
写真=iStock.com/fizkes
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解雇規制が企業の競争力を削ぐことをよくわかっていたのが、1998年から2005年までドイツの首相を務めたゲアハルト・シュレーダー氏だった。シュレーダー氏は「アジェンダ2010」を掲げて、「要らない人は外に出していい。国が責任を持ってリスキリング(再教育)して労働市場に戻す」と人材の流動化を進めたのだ。

シュレーダー改革で企業の生産性は高まり、浮いた人件費をデジタルに投資した。いったん外に出た労働者は再教育機関でITなどのスキルを身につけ、デジタル産業に再就職。それが「インダストリー4.0」(第4次産業革命)につながり、収益性を高めた企業が賃上げするという流れができた。

岸田文雄首相は、経団連など経済3団体の新年祝賀会で、企業にインフレ率を超える賃上げを要請した。企業に不要な人を抱えさせたまま賃上げ要請するのは、企業に「潰れろ」と言っているのに等しい。しかも呼びかけている政府自身の仕事ぶりは、人海戦術そのものだ。

実際、かつて北欧では人件費高騰を税金で補おうとして、国も企業も競争力を失った。無い袖は振れないのだから、岸田首相の掲げる「新しい資本主義」のもとで、日本人は確実に貧しくなっていく。

企業が賃上げできない根本原因が政府自身にあることを理解せず、結論だけ求めるのは、一国の首相として怠慢である。岸田首相は戦後長年にわたって日本と経済成長では併走してきたドイツの成功例から学ぶべきなのだ。

(構成=村上 敬 写真=時事通信フォト)
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