レジで見かける「手袋」は無意味どころか不衛生
まずひとつ目は、多くの人が今なお目にしている「対策」。それは手袋だ。スーパーのレジに並んでいると、未会計用のカゴから会計済用のカゴにバーコードで精算した商品を次々と移し替えている店員さんの手際の良さについつい見とれてしまうが、彼らの手には多くの場合、ディスポーザブル手袋がはめられている。そしてその手袋は、次々と客をさばいていく中で、客ごとにはめ替えられることはない。
いくつかの店舗では、アルコールと思しきスプレーをシュッシュと手袋に噴霧しつつ、前客の未会計用カゴを次客の会計済用カゴとして使うべく、これにもスプレーを噴霧し雑巾で拭って次客の精算に取りかかるところもあるが、それでも手袋は同じままだ。忙しさのあまりか、破れているのに気づかないまま使い続けている店員さんも散見される。
もうすっかり見慣れてしまった光景ではあるものの、この手袋の使い方に違和感を覚える人は私ばかりではないだろう。長蛇の列となっているときに、一人ひとり替えている時間的余裕などないのは理解できる。しかし「感染対策」としておこなっているとするなら、これは無意味であるばかりでなく、極めて不衛生であるとさえ言えるのだ。
その手袋は誰のために、何のために着けている?
そもそも手袋には、汚れや危険から自分の手を守る意味合いのものと、自分の汚れた手で清潔なものを汚さないためのもの、さらにその両者の意味合いを持つものとがある。
たとえばゴミを捨てるときにはめる軍手や掃除をするときのゴム手袋。これは自分の手を汚さないためにはめるものだ。化粧品売り場やブティックなどで店員さんが客に見せる商品を触るときや貴重な美術品を扱うときにはめる手袋、これは自分の手垢等で商品や美術品を汚さぬためのもの。そして私たち医師が手術の際にはめる滅菌手袋は、術者の手に付着している微生物等で患者さんの内臓を汚染しない目的とともに、患者さんの体液や手術器具等から術者の手を守る意味も併せもっている。
ではレジでの店員さんの手袋は、いずれの意味合いに近いだろうか。商品の外装には確かに種々の微生物が付着しているには違いないが、持ち帰る客が素手であるのに対して、店員さんがこれらの微生物から身を守るために手袋を着けているというのが理由であるならば、客の立場からすると「そんなに汚い商品を客に売っているのか」と思えてしまって、あまり気持ちの良い感じはしない。やはり、客の持ち帰る商品を汚さないために着用しているのであろう。
しかし、それが理由であるならば、前客が触った商品を扱い、現金を受け渡したその汚れた手袋を替えぬまま次客の商品に触れるという行為は、まさに汚染を伝播させていることに他ならないわけであるから、不潔極まりない行為といえるのである。