自分が行っても名刺を配ることくらいしかできない

私が錦鯉の『M-1グランプリ』決勝の現場に行かなかった理由は、大きく三つあります。

一つは、彼らのメンタル管理をするのなら別のマネージャーのほうが適していると思ったから。

言うまでも無く、『M-1グランプリ』決勝に挑む芸人はとてつもない緊張状態にいます。かなりの恐怖でしょうし、精神的に不安定になるかもしれません。彼らがいつも通り本番に向かえるようサポートするのも、マネージャーの仕事です。

SMAは、賞レースでファイナリストになると個別のマネージャーが付きます。

もちろん錦鯉にも2020年の『M-1グランプリ』でファイナリストになった以降はマネージャーが付きました。1年間並走して人間関係を築いたマネージャーがいるので、わざわざ私が行かなくともメンタル面は彼らのマネージャーが十分に支えられると思ったのです。

二つ目の理由は、私が行っても名刺を配ることくらいしかできないと思ったから。

SMAのチーフが来たということで、もしかしたら他事務所のマネージャーやスタッフが気を遣って挨拶に来てくれるかもしれません。いろんな方と人間関係を築くことは大事ですが、賞レース決勝の局面でわざわざやらなくても良いことです。コロナ禍ということもあり、現場に行く人間は一人でも少ないほうが良いというのもあります。

若手に「いつか賞レースの決勝に行ってほしい」と伝えたかった

そして最も大きな理由が、普段一緒にライブを頑張っている若手芸人に「いつか賞レースの決勝に行ってほしい」という期待を伝えたかったから。

平井精一『「芸人の墓場」と言われた事務所から「お笑い三冠王者」を生んだ弱者の戦略』(日本能率協会マネジメントセンター)
平井精一『「芸人の墓場」と言われた事務所から「お笑い三冠王者」を生んだ弱者の戦略』(日本能率協会マネジメントセンター)

芸人たちは、当然私が錦鯉の現場に行くと思っていたようです。「なんで行かないんですか⁉」と真剣にびっくりされました。

そのときに私は「君たちに期待しているからこっちに来た」と言いました。「5年後、10年後の未来に賞レースの決勝に行くのは、君たちかもしれないよ」とも言いました。「そのときこそ、一緒に現場に行かせてくれ」と伝えたほうが、彼らの心を刺激できると思ったのです。

錦鯉の『M-1グランプリ』を例に挙げましたが、行く現場を選ぶ基準はいつも「未来に繋がりそうなほう」です。もちろんトラブルになりそうな現場が最優先ですが、そうでなければ「大きな仕事だから」「楽しそうだから」のような理由で現場を選ぶことはありません。

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