逆にどこにも明文化されていない労使慣行が、就業規則以上の効力を持つ場合もある。たとえばずっと払ってきた手当を「就業規則に定めがないから」という理由で打ち切るのは不当。長年にわたって継続・反復されてきた労使慣行は、就業規則に勝ることがある。
このように法律や労使慣行に照らし合わせて判断されるなら、就業規則を定める意味はどこにあるのか。向井弁護士は「会社には就業規則で定めないとできないこともある」という。
「たとえば配置転換は就業規則に定めがないと難しい。社員に拒否されてトラブルになった場合、就業規則に書いてあれば会社側の主張が認められる可能性がありますが、書いてなければ会社側の負けです。明記したことがすべて認められるとはかぎらないが、明記しないと不都合が生じかねない。会社側にとって、就業規則は厄介なしろものなのです」(同)
ちなみに常時10人以上を使用している会社は、就業規則を労基署に届け出る義務がある。その段階で、労基署が中身をチェックしてくれないのだろうか。
「労基署は就業規則の合理性について判断しません。法令違反があれば指導することになっていますが、実態としては中身を精査せずに受け取るだけ。結局、合理的かどうかは裁判になるまでよくわかりません」(同)
就業規則は、いわばかりそめのルール。鵜呑みにするのは、やめたほうがよさそうだ。
※すべて雑誌掲載当時
(図版作成=ライヴ・アート)