日本の出生率を考えるうえで避けて通れないのが未婚化だろう。30〜34歳の未婚率は、1985年に男性28.2%、女性10.4%だったが、2015年は男性47.1%、女性34.6%と上昇(内閣府『令和3年版 少子化社会対策白書』)。一方、既婚者が子どもを持つ数は、現在もおおむね「2.0」前後で推移している。結婚すれば2人の子を持つが、そもそも結婚しない人が増えたために少子化が進んだ面がある。

未婚化が進んだ背景の1つは、男女間の経済格差の縮小である。女性は自分より年収が150万円程度多い男性との結婚を望む傾向にある。男女の収入格差が大きい時代は、その条件に当てはまる相手がいくらでもいたが、女性が稼ぐようになればなるほど、その女性より年収が高い男性の数は減っていく。女性から見れば「希望に沿う相手がいない」、男性から見れば「女性に相手にされない」状況になってしまった。

本来は夫婦のどちらが稼いでいようといいはずだ。しかし、日本では男性が上でなければ恰好がつかないという意識がいまだに根強い。

通帳を眺める夫婦
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私は1970年代、マッキンゼーで昇進や給与を完全に男女平等にした。しかし、ある優秀な女性がいてパートナーに昇格させたとき、「給料を上げないでください」と文句を言われた。話を聞くと、東大卒官僚の旦那より3倍多く稼ぐようになり、家庭内のバランスが崩れかけているという。マッキンゼーは「UP or OUT」(昇進するか、そうでなければ辞めるか)が鉄則で、現状維持を望む人材に居場所はない。残念ながら彼女は退職した。

日本は女性が多く稼ぐと夫婦関係がうまくいかなくなる国だ。その意識を根本から変えないと、未婚化は改善しない。

夫婦別姓反対、移民反対では日本消滅

ただし、未婚化が進んでも少子化が解決できないわけではない。実は、フランスやスウェーデンでは生まれてくる子のうち5〜6割が婚外子(法的に婚姻関係にない男女から生まれた子)だ。一方、日本は婚外子の割合が約2%にすぎない。少子化に日本よりも悩む韓国も同じような状況だ。ヨーロッパでは未婚でも子を産んで育てられるが、日本はそれが難しく、妊娠しても堕胎してしまう。そこが出生率を回復・維持させた国々との決定的な差になっている。

日本はなぜ婚外子を産みづらいのか。シングルマザー(母子家庭)への支援が薄いことも問題だが、根本には婚外子への差別がある。では、なぜ婚外子は差別されるのか。さらに掘り下げると、父系社会の象徴である戸籍制度に突き当たる。

フランスやスウェーデン、デンマークは、30〜40年前に戸籍制度を撤廃した。戸籍がなくなれば国籍を証明できない、と考えるのは「父系脳」だろう。父親が誰であろうと母親が子を産めば一義的に親子関係は証明できる。実際、デンマークでは出生証明には母親の欄しかないのだ。父親が「自分はこの子の父親だ」と届け出たければ、自己申告できるが、そうしなくても不都合はない。社会的な差別は一切ない。