競技後のインタビューでは聞き返すことも多い

僕の場合は理屈ではなく、自分なりにいいと思えるやり方をしています。

深呼吸の効果もあるのか、演技が始まる頃には、ほとんど何も考えていない状態になっています。

集中力というものは、おそらくトレーニングでも鍛えられると思います。

僕の場合はもともと高いほうだったのかもしれません。親から聞いた話では、3歳の頃から、何かに夢中になると、他のことは“見えない聞こえない状態”になり、ひたすらそのことだけをやっていたようです。

体操の競技中は極限まで集中しています。

競技が終わったときにいちばん疲れているのは脳で、肉体的なつらさは翌日以降にくるものです。

競技が終わった瞬間は、インタビューを受けても日本語が入ってこないこともあります。質問を受けたあと、「いまなんて言いました?」と聞き返している場合も多いのです。その後しばらくのあいだは、スマホを見ようとしても文字が読めないこともあります。それだけ競技中は集中して目と脳を使っているということなのだと思います。

長丁場の競技でどうやって集中力を保っていたか

一般の人にはあまり関係ないかもしれませんが、僕の場合、体操で6種目の演技をするうえで集中力を切らさないためのパターンのようなものもあります。

個人総合決勝を第1組(予選成績上位の組)で回る場合、床から始まり、鉄棒で終わることになります。

床は得意なので、深く考えないでもミスすることは少ない。2種目目のあん馬は落下しやすい種目なので気を引き締める。次のつり輪は失敗がほとんどない種目なので、ある程度、気持ちをフラットにする。

体操競技用の器具が置かれた体育館
写真=iStock.com/Polhansen
※写真はイメージです

4種目目の跳馬ではまた気合いを入れます。たとえばリオデジャネイロオリンピックではリ・シャオペンという大技をやったので、気持ちを最大限に高めました。

跳馬は競技時間が短いため、ここで間が空きます。そうすると集中が切れやすいので、5種目目の平行棒は“1種目目のつもり”になって気持ちをつくり直します。

6種目すべてに同じ気持ちで臨むのではなく、そうして気持ちを整えていくことをパターンにしていました。

5種目目までうまくいったときは、そのままいくというよりは、6種目目に気持ちを入れ直すようにもしていました。