自身を「わらしべ登山家」と称した理由

栗城さんとの出会いを、Kさんは自身の著書にも綴っている。2007年9月、著名な旅行会社の経営者との講演会の場だった。栗城さんが会場で、南極大陸最高峰ビンソンマシフに再挑戦するための遠征資金を募っていた。

「『南極へは船も飛行機も定期便はいっさいありません。(中略)マゼラン海峡近くのチリ最南端にあるプンタアレナスの町から、軍用機をチャーターするしかないんです。(中略)一人当たり400万円もする。だから、今回は誰かにカンパしてもらわないと、南極は難局になるんですよ』。栗城君は、白い歯を見せてハハハッと軽く笑い飛ばす。なんとも陽気な、能天気といったほうがぴったりの不思議な青年であった。私も酔った勢いで言ってしまった。よっしゃあ、まかしたれ!」(Kさんの著書より)

1万円札
写真=iStock.com/liebre
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栗城さんを気に入ったKさんは、自身が主催する勉強会に彼を呼ぶようになった。各界の重鎮にも引き合わせた。Kさんに見せてもらった写真では、国土交通大臣や世界的なメーカーの会長など錚々たる人たちを間に挟んで2人が笑顔を見せていた。首相夫人だった安倍昭恵氏と撮った写真もあった。

一つの出会いが次につながるコネとなり、そのコネが更に太いパイプとなる。支援者やスポンサーのネットワークが広がっていく様を、栗城さんはこう表現した。

「ボク、わらしべ登山家、なんですよ」

資金集めのためならアムウェイ主催の講演会にも顔を出す

一方で、そんな栗城さんに懸念を抱く人もいた。大学時代から彼を知るBさんは言う。

「栗城君が大学を卒業した後、2007年か8年だったと思うんですけど、札幌で開かれた彼の講演会をのぞいたんです。主催者の名義は札幌の夫婦でしたが、ネットで検索してみたら『日本アムウェイ』のディストリビューターでした。私はマルチビジネスの勧誘が嫌いなので、そのときは栗城君に忠告しました。『商売や政治の色がついているところをスポンサーにすると面倒だよ』って。そのときは『はい』と答えていましたけど、その手の講演は増えていったみたいですね」

アムウェイは日用品や化粧品、サプリメントなど様々な商品を「連鎖販売取引」する企業だ。1959年にアメリカで生まれ、日本を含む世界各国に拠点を持つ。登録した個人事業主が、年会費を支払って「ディストリビューター」(価格を自由に決められる卸売業者)となり、仕入れた商品を小売りして利益を得るシステムである。マルチ商法とかマルチビジネス、ネットワークビジネス、とも呼ばれる。

違法ではないが、「料理教室と思って行ってみたら、アムウェイの家電やキッチン用品のセールスだった」といった類のトラブルも起きている。そのため、その営業活動には「特定商取引法」で、「勧誘する際には先立って、勧誘者の名称を明示しなければならない」「相手方にとって特定の負担を伴う取引であることを告げなければならない」「一度断られた人を再度勧誘してはならない」など様々な制限が課せられている。

アムウェイに限らず連鎖販売取引の事業はたくさんあり、ディストリビューター向けの月刊誌まである。