勝利至上主義の否定

堺ビッグボーイズは、選手全員を試合に出してきた。しかし選手が増えると「試合数の確保」が問題になってくる。これまでは練習試合を増やし、リーグ戦を組むなどしてきたが、2022年から堺中央ボーイズ、堺南ボーイズ、南花台ボーイズの3チームで参加、ユニフォームも新調して大会に挑んでいる。

中学部監督の阪長氏は、

「今年は2年生が46人いるので、まずは公式戦も含めて出場機会を増やすのが第一の目的でした。ただ同じカテゴリーに3チームとも出るので、トップとそれに次ぐチームでは目指すところも違います。それも意識させたいですね。

スポーツマンシップでは『勝利至上主義』を否定します。一方で、スポーツは勝利を目指すものですから『勝利』から逃げない姿勢も必要です。そうした考えをわれわれも一緒に学んでいます。

嬉しいことのひとつは、堺ビッグボーイズの卒業生が高校でキャプテンや副キャプテンになることが増えていることですね。技術はもちろん野球に対する取り組み方で、高い評価を得ているのではないでしょうか」と話す。

中学部の選手に話す阪長氏、左は古谷コーチ
筆者撮影
中学部の選手に話す中学部監督の阪長氏(右端)、隣は社会人経験豊富な古谷コーチ

生徒だけでなく指導者も集まる

評判を聞きつけて、全国から指導者や野球関係者も見学に来る。中にはボランティアで指導を手伝う人も出てくる。

古谷英士氏は、NTT西日本硬式野球部で投手、コーチとして長く活躍したが、昨春から週末に中学部を指導している。

「息子が野球を始めて、現場の指導者が古い考えで変えようとしないことに危機感を抱いた。自分の野球観を磨き、指導法、マネジメントを学ぶためにここに来ている」と話す。

古谷氏だけでなく、大学生、大学院生、高校教員などが指導を手伝いながら堺ビッグボーイズの野球を学んでいる。

目標は「ずっと野球が好きでいてもらうこと」

現在、小学生の少年硬式野球は、中学以上に深刻な状態にある。堺ビッグボーイズの小学部が所属する地区では数年前まで他に3チームあったが、昨年までにすべてなくなった。

一方で堺ビッグボーイズ小学部には昨年も50人の応募があり一部を断らざるを得なくなっている。

大阪府堺市の小学部専用球場で「こないだ休んでたん風邪か? もう治ったんか?」と子供に気さくに声をかけているのが、堺ビッグボーイズ代表の瀬野竜之介氏だ。

瀬野氏は東海大学まで野球をしたのち、父が始めた堺ビッグボーイズを引き継いだ。

瀬野竜之介代表
筆者撮影
数々のスタープレイヤーを生み出した瀬野竜之介代表

当初は勝利至上主義で、全国大会で優勝、国際大会の代表監督も務めたが、教え子の多くが高校、大学で野球をあきらめていること、そして選手が楽しそうに野球をしていないことに気がついて、2009年に指導法を全面的に改めた。

練習時間を短縮し、肩、肘、腰など選手の健康に配慮した練習法を導入した。そしてチームの目標を「目先の勝利」だけではなく「高校以降での活躍」さらには「子供たちが、ずっと野球が好きでい続けること」に切り替えた。