ターゲットからなるべく遠い人から攻める

対象に接近するには、直接法と間接法がある。

直接法は目標とする情報に迅速アクセスできるが、失敗する危険性も高い。元諜報員の話を調べてみると、だいたいは間接法を使う。

間接法は、対象からできるだけ遠い人から攻めるのが鉄則だ。

情報を得たい相手が会社員だとすれば、相手の趣味仲間や子供のママ友など、相手にとって警戒感のより薄いところから活路を開く。

こうした巧みなアプローチ法については、日本では探偵が詳しい。探偵は聞き込みが不自然ではないストーリーを最初につくる。

調査対象の過去の居住地や高校時代の友人など、調査対象者の遠いところから調査を開始するのが探偵の鉄則である。

そしてだんだんと、内情をよく知っている人へ近づいていく。あたかも「調査対象者の古い友人と深い関係にある」といったストーリーをつくって聞き込んでいく。

本当はターゲットのことを聞きたいのだが、あえてターゲットの周辺を聞き込むことを「ボカシ調査」と言う。

ただし、このような安全な調査であっても、ひそみ行為や覗き見行為など軽犯罪法違反になったり、地域住民から通報されたりすることになるので要注意である。

対象にアプローチするために、対象がどこに住んでいるのかは最大関心事であろう。しかし、そうした場所を徘徊はいかいするだけでも世間から不審な目で見られ、通報されたりする。

だから、地域を徘徊するためには、それにふさわしいストーリーが必要になる。たとえば、テレビ局や新聞社のインタビュアー、あるいは不動産業者ならば付近を徘徊したからといっても不自然ではない。

むろん、テレビ局員や不動産屋をかたるには、相応の知識は必要であるし、そのように見えるマイク、腕章、携帯ノートなどの小道具も必要である。

実際の団体や、警察や公務員をかたると犯罪なので絶対に行なってはならない。架空の団体をかたることも行動がいきすぎれば軽犯罪となるので要注意である。

諜報員や探偵がやっているようなことは、素人が容易にできるものではない。もちろん、探偵のように動こうというビジネスパーソンも少ないだろう。

しかし、ターゲットからなるべく遠い人から攻めるというのは参考になる。

そして、むしろ重要なことは、世にはこうして情報を集めている諜報員や探偵が存在しているという事実をセルフディフェンスの視点から知っておくことである。

フィーリングを相手に合わせられるか

ビジネスパーソンが相手にアプローチしたいならば相手を敬い、真心をつくして接するのが基本である。

相手のことを公開情報で調べて、相手がどんなことに関心を持っているか明らかにし、相手の気持ちを考えて、相手にとって自分が会ってみたいと思える人物であるかを考えてみる。

相手を理解し、相手の趣味や家族に寄り添うことができるなら、趣味サークルや子供の関係から、良好な交際や核心の情報を得るためのコミュニケーションのチャンスは得られる。

相手が会いたくなる人とは、どんな人か。

自分が知らない情報を持っている人、人脈を持っている人、会って退屈しない人、安心できる人、温かい人、感情の豊かな人、聞き上手な人、挙げればきりがないが一言ではフィーリングを相手に合わせられる人である。

諜報員はフィーリングを合わせているのである。そのため、ターゲットをよくよく事前研究しており、弱みや強みを把握している。強みは賞賛し、弱みは親身になって聞く、ということを行なっている。