生活に困窮した場合、すべての国民には「生活保護」を受ける権利がある。ジャーナリストの樋田敦子さんは「ところが実際には、生活保護を申請したくても、窓口で追い返されるケースが後を絶たない。背景には福祉事務所職員の不勉強の問題もある」という――。

※本稿は、樋田敦子『コロナと女性の貧困2020-2022 サバイブする彼女たちの声を聞いた』(大和書房)の一部を再編集したものです。

「生活保護」への根強い差別と忌避感

2021年8月、作家やユーチューバーとして活動する“メンタリスト”のDaiGo(ダイゴ)が「ホームレスの命はどうでもいい」「正直邪魔だし、プラスにならない」などと発言する動画をインターネットで配信し、生活困窮者の支援団体の関係者などから、批判の声が相次いだ。問題の動画は削除され、DaiGoはネットの配信で「無知が招いた失態だった」と謝罪した。

支援団体は「発言の根底にあるのは差別や偏見。当事者を見下すことで、差別や偏見を広げることにつながっている」と批判した。

困窮者支援を続ける知人は、連日多忙を極めていた。所持金がわずかで、宿泊する場所のない人たちが路上に押し出されていて、その救助に向かう人。生活保護の申請に同行する人。申請同行で自治体の担当者のあまりの横暴さに怒りを感じる人。

生活保護問題対策全国会議事務局次長の田川英信たがわひでのぶも、その1人である。田川は、生活保護行政に15年以上携わってきた「生活保護のプロ中のプロ」である。

田川の1日は、メールを読むことから始まる。新型コロナウイルスの感染拡大直前に結成された「新型コロナ災害緊急アクション」の相談フォームに寄せられたメールに目を通し、詳細を聞き取り、連携する支援団体につなげていくのが日課である。(当時)

寄せられている相談は「メール相談ということもあり、20~30代半ばの方からの相談が多いです。女性も2割ほどいます。そしてSOSを出される方の所持金は、ほとんどが1000円未満です。昨日夜7時にSOSしてきた男性は、『今晩泊まるところがない』と言います。事務局の瀬戸大作さんが即座に動いてくれて、新宿で9時に待ち合わせて、ホテル代と当面の生活支援金を渡しました。そうでなければ彼は、路上で一夜を過ごすことになったと思います。後日、生活保護申請につなげる予定でいます」

また、早朝4時にメールがきて、7時に返信したが、その後全然応答がなかったことがあった。携帯は止められていて連絡がつかなかった。そのため、Wi‐Fi環境があるところでしかメールが送受信できなかったらしい。「Wi‐Fiのあるところで待っていてください」と田川は伝え、やっと連絡がとれるようになった。「毎日、綱渡りの連続です」と田川は言う。

生活保護を申請したいという人は、どのくらいの数がいるのだろうか。

「そんなに多くはありません。最終的には生活保護しかないというケースもありますが、ストレートに申請したいと書いてくるのは、2割程度です。生活保護の申請が少ないのには、2つ理由があります。まず、コロナで大変だけれども、持続化給付金や住居確保給付金、社会福祉協議会の貸付でこれまでなんとかやってこられたので、生活保護ではなく、とにかく当面しのげればいいと考えているから。そして、多くの人は生活保護はいやだという忌避感が強いのです。困っているのに申請が増えないのは、後者の理由から。生活保護を受けるなら死んだほうがマシだ、とはっきりおっしゃる方もいます」