倒れ込んだ男性をそのままバックで乗り越え、前後に行き来しながら計3回ひいた模様だ。看護師が駆けつけたが、呼吸はすでに浅く断続的だった。男性はまもなく死亡した。女性は殺人罪で起訴されている。

AirTag自体が殺人に使われていたわけではないものの、交際相手のストーキングに利用され、3回ひき死亡させるという凄惨せいさんな事件の遠因となってしまった。

米メディア「犯罪者の道具になっている」

位置の追跡から殺人に発展した例は、これだけではない。隣接するオハイオ州でも今年5月、AirTagで追跡され殺害された事件が発生している。

米ABC系列の在オハイオ局「ニュース5」は、同州に住む女性が殺害された事例を報じている。元交際相手の男性からAirTagで追跡され、位置を特定された自宅で射殺された。

米FOXニュースによると、被害女性の車のシートクッションのなかにAirTagが仕込まれていたという。AirTagは不正防止のため、特定の状況で本体から警告音を発するが、これを消音する目的があったとみられる。

FOXニュースはこうした悪用事例が相次いでいると指摘し、「AppleのAirTagは所有物追跡に役立つはずだったが、ストーカーと犯罪者の道具となった」と述べている。

警戒感を抱きながら夜道を歩く女性
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
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集団訴訟に発展、ストーカーの悪用事例は150件超

ほか、殺人事件には至らずとも、ストーキング行為への悪用は複数発生している。米CNNは、ニューヨーク州およびテキサス州の被害女性に代わり、Appleを相手取った集団訴訟が提訴されたと報じている。

1人は元交際相手の男性から、車のホイールウェル(タイヤ周囲のスペース)に仕掛けられたと訴えている。ビニール袋に入れられ、目立たぬように着色されていた模様だ。もう1人は元夫から、子供のバックパックにAirTagを仕込まれたと主張している。

FOXニュースによると、アメリカでは現在50州のすべてで、AirTagなどによるストーキング行為が違法行為に該当しない。仕掛けられ位置情報を常時把握されても、それだけでは警察が動けない状態だ。この点で、GPS機器等を使い相手の位置情報を無断で取得することを規制する日本のストーカ規正法とは異なる。

米メディアのヴァイスはAirTagによるストーキング事件が、正式に報告されているものだけで150件発生していると報じている。

忘れ物や紛失を防ぐ便利アイテムだったのに…

AirTagはアメリカで29ドル(日本では税込4780円)と、比較的安価に販売されている。小型で高精度、かつ安価な機器とあって、忘れ物防止の保険の意味で人気だ。しかし同時に、まったく同じ理由で、悪用を企てる無法者たちの興味を引いてしまっている。