なお、AirTagはまったく新しい商品というわけではない。同製品の発売前からすでに、Tileと呼ばれる同じコンセプトの商品が存在した。米Tile社が開発し、米Life360が昨年11月から買収に乗り出している。
Tileを含め、忘れ物防止タグとプライバシーの懸念は切っても切れない関係にある。米テックメディアのヴァージは翌12月、Life360社がユーザーの位置情報を販売して巨額の収益を得ていると報じ、Tile事業の買収に懸念を示していた。同社はTileの位置情報は販売しない方針だと説明している。
Appleの場合はプライバシー保護を優先しており、AirTagの位置データを販売することは到底考えられそうにない。それでもセキュリティー情報を報じる米セキュリティー・ブルバードは、捜査当局などの要請により、ユーザーの位置情報の履歴が開示されるおそれも皆無ではないと問題提起している。
Appleとしても不正防止対策を繰り返し打ち出しているが、製品の特性上、根本的な解決には至っていないのが現状だ。
安価で小型、高精度が裏目に出る
2021年の発売当初からAirTagは、2つの悪用防止機構を備えている。所有者本人の元を長時間離れた場合にAirTag本体から警告音を鳴らし、周囲の人物にAirTagの存在を知らせる。
また、iPhoneユーザーであれば、自分が所有していないAirTagが自分と一緒に一定時間移動している場合、不審なデバイスに追跡されていることをiPhoneが警告してくれる。
製品の悪用が報じられるようになると、Appleはさらに対策を強化した。ファームウェア・アップデートを配布し警告音をより聞き取りやすく改善したほか、所有者の元を離れた際の鳴動のタイミングも、3日間から8~24時間のランダムな間隔に改めた。
これらのアップデートは、AirTagが所有者のiPhoneの通信圏内にある際に自動で適用され、原則として回避することはできない。
Androidユーザー向けには「トラッカー検出」アプリを配布し、不審なAirTagの警告を受け取ることができるようにしている。
だが、高精度の位置情報を小型かつ安価なデバイスで把握できるとあって、悪用をもくろむやからは後を絶たない。
自分のiPhoneがストーカーに悪用される恐れも
小型のAirTag自体は、インターネットへの接続機能を持たない。にもかかわらず常時位置を把握できるのは、iPhoneを販売するAppleならではの強みがあるからだ。
世界にある数億台のiPhoneやiPad、そしてMacは、「探す」ネットワーク(Find Myネットワーク)という巨大な通信網を形成している。落としたAirTagのそばを誰かのiPhoneが通りかかるたび、近距離通信のBluetoothを通じ、他人のiPhone経由で位置情報をアップロードする。