【永濱】ただ、中国の経済が強まったといっても、アメリカと比べたらまだまだ。アメリカのインフレ率8%に対し、中国はまだインフレ率2%程度で落ち着いています。

2022年11月にも追加の金融緩和の報道が出ましたが、中国政府から見れば、通貨を実力よりも割安にして経済を引っ張り上げることが必要なのでしょう。

中国の理屈で言えば、金融緩和をしているのは理にかなっています。

【やすお】なるほど。では、ユーロはどうですか?

【永濱】2010年代前半の欧州債務危機によって通貨が安くなりました。米ドルよりも割安ですが、金融緩和が必要かというとそうではありません。

アメリカほど積極的ではないにしても、インフレによる金融引き締めを実施しています。そういった相対的な金融政策の違いが、乖離率からは見て取れます。

円高で産業の空洞化を招いた日本

【やすお】改めて、日本円の実力はどうなんでしょうか?

【永濱】ユーロや人民元などと同様に弱いですね。とはいえ、プラザ合意が行われた80年代半ば以降、異常な円高で通貨が強すぎたのを、アベノミクスの大胆な金融緩和によって意図的に弱くした側面もあります。

【やすお】理屈ではわかりますが、弱いのはなんかイヤですね……。

【永濱】やすおさん。何度でも言いますが、通貨が強いからといって、その国の経済が強いとは限りませんからね。

【やすお】そうですよね……。

【永濱】その例が、過去の日本です。プラザ合意が行われた80年代半ばからアベノミクスが始まる2010年代前半まで、日本円は割高な状況が続いてきましたが、経済の実力があるから円高だったわけではありません。

【やすお】実力以上に、自国通貨が高かったわけですよね。

【永濱】そうです。そのせいで、本来海外に進出する必要がなかった生産拠点がどんどん外へ行ってしまいました。

その結果、地方を中心に産業の空洞化を招き、経済を衰退させてしまったことをお忘れなく。

崩壊するレンガ造りのビル
写真=iStock.com/Richard Wellenberger
地方を中心に産業の空洞化を招き、経済を衰退させてしまった(※写真はイメージです)