安倍氏の死去と、立憲―維新間の部分的共闘
与野党の勢力図がさほど変わらないのに、国会の空気感が180度逆転したのは、安倍氏の死去や旧統一教会問題の発覚という「外的要因」に負うところが多い。しかし、もう一つの大きな要因は、立憲と維新が国会内で、部分的にとはいえ「手を結んだ」ことだったろう。
維新は安倍・菅両政権と良好な関係を築き「ゆ党」的立場を謳歌していたが、安倍氏が死去し、菅義偉前首相も現時点で表舞台から退いたこと、両氏と親しかった維新の松井一郎代表が参院選での伸び悩みを理由に辞任したことで、空気が微妙に変化した。「泥船」の岸田政権から距離を置き始めた維新に、立憲が近づいた。
野党第1党と第2党が「政権監視と批判」で足並みをそろえられるか否かは、国会における野党全体の戦闘力に大きく影響する。両党が無駄な同士討ちを避け「一枚岩」感を出せたことが「野党ペース」の国会につながったのは否定できないだろう。
特に通常国会で維新から散々たたかれていた立憲にとってメリットは大きかった。「国会内での部分的連携」で維新に「後ろから撃たれる」状況を食い止めた、有り体に言えば維新の「口を封じた」ことになるからだ。
この「野党ペース」を通常国会でも持続できるのかが、今年前半の野党の課題だろう。
防衛費増額問題では立憲と維新のスタンスは異なるが…
岸田文雄首相は年頭の記者会見で、旧統一教会問題に触れようとしなかった。被害者救済新法という「ほんの入り口」のハードルを一つ越えただけで、この問題を「厄介払い」したつもりになっている。
野党がそれを許すはずがない。被害者救済新法の成立で「旧統一教会と自民党との関係」問題にまでけりがついたと考える人は、誰もいないだろう。野党各党がこの問題で今後も足並みをそろえることは、さほど難しくないはずだ。
しかし、臨時国会が閉会した途端、岸田政権はいわゆる「安全保障関連3文書」を改定し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記した。さらに、2023年度からの5年間で防衛費を増額し、財源を増税で賄うことを、国会の議論がほとんどないままに強引に決めた。しかも、肝心の「どのように増税して財源を確保するのか」の見通しは、ほとんど立っていない。
当然、通常国会ではこの問題が焦点に浮上する。そして立憲と維新は、この問題ではスタンスがかなり異なる。立憲は敵基地攻撃能力の保有を批判し、維新は容認している。
もしもメディアが岸田政権と同様の発想で「旧統一教会問題は終わったこと」という態度を取り、通常国会をあたかも「安保一色の国会」であるかのように一大キャンペーンを張ったらどうなるか。予算委員会などで安全保障の議論がなされるたびに、野党各党の質問のトーンの違いをあげつらって「同床異夢」「足並みに乱れ」などと騒ぎ立てたら、各党に心理的な影響を与えないと言えるだろうか。