「医療を受ける資格がない」と我慢する滞納者たち
滞納処分によって滞納者の生活を著しく窮迫させるおそれがある場合は差し押さえを停止し、納税義務を消滅させる制度がある。国税徴収法で定められた「納税緩和制度」といい、本来は国保料にも適用される。この中の「徴収猶予」が認められると1年以内の納付が猶予され、さらに1年も延長できる。また差し押さえを受けていた時は解除を申請でき、延滞金も減免できるのだ。しかしこれらの緩和規定は、残念ながら地方徴収行政において事実上“飾り物”状態といっても過言ではない。
一方で大阪府では古くから国保にまつわる市民運動が盛んで、「例えば生活保護を受けている人は生活困窮なのだから、“滞納処分停止の対象”ではないかという声がありました。今では生活保護世帯は、ほぼ滞納処分が停止されています」(寺内氏)という。
もちろん国保料を含めた税金は、憲法に規定されている通り、日本国民として支払う義務がある。多くの滞納者はそれをわかっているからこそ、差し押さえをされて生活できなくなっても、声を上げない。自分は医療を受ける資格がない、とひたすら我慢の生活を送るのだ。
私が昨年、救急医療現場で密着取材していた際、所持金が7円で公的医療保険に加入していない40代男性を見かけた。お金がない、住むところがない、死にたいが死ねないと、その男性は救急車を呼んだのだ。決して許される行為ではないが、八方塞がりの状況に胸が痛くなった。もしあなたの身近な人がそのような事態に陥っても、「それは本人の責任だから」と言えるだろうか。リストラや給与の引き下げ、事業の縮小や廃止などの憂き目は誰にでも起こり得る。そして国保に加入すれば、所得に占める割合の高い保険料と、厳しい取り立てに直面する可能性がある。明日はわが身なのだ。
健保変更で保険料は年88万円から年45万円に減った
さて前回、私の昨年の国保料は年額約88万円と記した。このままでは高い国保料によって生活が破綻すると考えた私は、「市町村が運営する国保」でなく「特定の職業団体が運営する国保組合」に加入申請した。
前回のおさらいになるが、公的医療保険は以下の6つに大きく分けられる。
2)中小企業で働いている人とその家族が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)
3)公務員、学校職員とその家族が加入する共済組合
4)医師や建設など特定の職業団体が運営する国保組合
5)後期高齢者医療制度
6)国保(市町村が運営)
私は(6)から(4)に加入したということだ。(4)には医師や芸能人、建設、食品などさまざまな職業団体があるが、私の場合は著作活動を主として収入を得る「文芸美術国民健康保険組合」が該当した。審査を経て、昨年8月から私も子どももそこに加入することができた。保険料は収入にかかわらず均等で、私と高校生の娘の二人分で年間約45万円(加入者の年齢や家族構成によって異なる)。市町村が運営する国保のおよそ半額になった。個人事業主やフリーランス、非正規職員で市町村国保が払えないと感じた時、自分の仕事の業種が当てはまる国保組合がないか、調べてほしい。
しかし、私はこれで一件落着ではなかった。昨年4月から7月まで加入していた国保料の支払いが残っているのだ。年間88万円と述べたが、その4カ月分の国保料として「29万円」(88万円÷12カ月×4カ月分)の納付書が送られてきた。一括納付は厳しいと感じ、その支払いについて相談しようとすると、区の職員から「滞納しているあなたの主張は聞きません」という言葉を投げつけられた。代わりに「このまま国民健康保険料の未納が続くと、あなたの財産を差し押さえます」というショートメールや督促状が届いた。その紙には指定期限までに納付しないと、<財産調査が行われ、予告なく差し押さえが執行される>とある。
それを見た時、私も子どもも7月まで一度も病院にかかっていないのに、と正直腹が立った。だが何とか区との話し合いの場を持ち、分割納付を申請し、今も月々1万2000円を分納している。支払いは来年の11月まで。現在加入している文芸美術国民健康保険の保険料と合わせると、月に5万円が「健康保険料」として消えていく。しかも、29万円の完納後も、その延滞金の支払いが待っている。国保料の支払いは、いつまでも終わらない。