前橋地裁で「全額差し押さえは違法」という判決が確定

違法な差し押さえから市民を守ろうと奮闘する司法書士の仲道宗弘氏に話を聞いた。

「国税徴収法48条に『わずかな滞納額ではるかにそれを上回る金額を差し押さえてはならない』と明記されているのですが、実際には数万円の滞納額に対して、数百万円の評価額がある不動産を差し押さえるということもよくあります。ほかにも仕事で使う車をタイヤロックする『自動車の差し押さえ』や、給料が銀行に振り込まれたら、即日全額差し押さえという事例も。ただしこれについては2018年に前橋地裁で“全額差し押さえは違法”という判決が出ました。前橋市は控訴をあきらめ、判決が確定しています」

厚労省は差し押さえ禁止の基準について「1カ月ごとに10万円と、滞納者と生計を一にする配偶者その他の親族がある時は、ひとりにつき4万5000円を加算した額は差し押さえることができない」としている。つまり世帯主と配偶者、その子どもの3人世帯であれば(世帯主)10万円+(配偶者)4万5000円+(子ども)4万5000円=19万円は「差し押さえ禁止額」である。にもかかわらず、預金口座全額を差し押さえるケースが今も後を絶たない。

市に生命保険を強制解約させられたシングルマザー

生命保険を強制解約されるケースもある。

前橋市で働くある40代のシングルマザーは生活が苦しく、国保料を納めていない時期があり、延滞金を含めて50万円程度の滞納があった。昼も夜も働きづめの中、約12万円の給料が入った時、市から銀行預金を差し押さえられ、強制的に10万円を徴収された。女性は友人に借金をしてしのいだそうだが、その後、生命保険を強制解約させられて解約返戻金を市に徴収されてしまったのだ。

そして、この女性は4年前にがんで死亡したという。仲道氏が怒りを込めて訴える。

「彼女は毎月2万円ずつ支払っていたのです。しかしそれを4万円にしなければ生命保険を解約すると市に脅されました。違法ではありません。市税を滞納している市民が生命保険に加入しており、解約返戻金がある場合には、契約者の意思によらずに生命保険契約を一方的に解約することができます。しかし、生命保険の契約内容が資金運用や蓄財の場合と、生活保障を主目的にする場合とで区別せず、解約返戻金があるという理由だけで強制解約に及ぶことはあまりに乱暴すぎるのではないでしょうか」

特に非正規職員は離婚や死別によって、もともと負担であった国保料がさらに重くのしかかり、経済的に追い込まれやすい。

自治体の延滞金通知の解説内容
筆者撮影
自治体の延滞金通知の解説内容