フォアマンのパンチに威力がない

第5ラウンド、フォアマンは勝負に出た。アリをロープに詰めて渾身のパンチをボディに何発も打ち込んだ。普通の人間なら肋骨どころか背骨さえ折れるほどのパンチだが、アリは凄まじい精神力で耐え抜いた。そして終盤、打ち疲れたフォアマンに鋭いジャブと右ストレートのカウンターを見舞った。フォアマンの足が一瞬よろけた。

第6ラウンドも第7ラウンドも同じ経過を辿ったが、フォアマンのスピードが鈍ってきた。アリをロープに詰めて打ち込むパンチも序盤ほどの威力がなかった。疲れが出始めていたのだ。

フォアマンがこれほど長いラウンドを戦うのは久しぶりだった。フレージャーからタイトルを奪った試合も、その後の2度の防衛戦も、いずれも第2ラウンドまでに相手をKOしていて、3年以上も3ラウンド前後の戦いしかしていなかった。それで、この試合も序盤に決めてしまおうとスタミナのことを考えずに試合を進めたのかもしれない。

運命の第8ラウンド

第8ラウンド、アリは前進するフォアマンに対してカウンターの左ジャブを何発も当てた。フォアマンはかまわずアリをロープに詰めると、重いパンチを打ち込んだ。アリも被弾したが、フォアマンのパンチには一撃でKOできるほどの威力は失われていた。

中盤過ぎ、フォアマンはアリをロープに詰めて、猛攻する。1分以上にわたってしゃにむにパンチを打ち込むが、アリの防御テクニックの前に有効打を与えることができなかった。

ラウンドの残り時間20秒となった時、アリはフォアマンに左ジャブから右ストレートを決めた。チャンピオンは一瞬バランスを崩した。アリは素早くロープから出て体を入れ替えると、左右のショート連打でフォアマンをふらつかせ、最後に右ストレートを顎に打ち込んだ。フォアマンはリング上で宇宙遊泳のように体を泳がせ、仰向けに倒れた。

スタジアム中に地響きのような大歓声が起こった。フォアマンは懸命に立ち上がろうとするが、レフェリーは無情にもテンカウントを数えた。それを見てアリは高々と両手を上げた。有り得ないことが起こった瞬間だった――。