「次の出勤に対応できるだろうか」

ところ変わり、国内線の最大拠点である羽田空港。

3月時点ではまだ、空港ににぎわいが残っていた。「次の夏休みは海外旅行に行けるかな」。羽田のグランドスタッフが所属するANAエアポートサービス・旅客サービス部の薮崎絵里はその頃、同僚とこんな会話を交わしていた。様々な報道や成田空港の様子などは耳に入っていたし、羽田発着の国内線も一部減便が始まっていた。しかし、旅客数にさほど変化は感じられない。未知のウイルスはどこか縁遠いものとして感じていた。

ただ、4月に日本国内でも感染が拡大し、緊急事態宣言が発令されると、全国の空港の客足が一気に途絶えた。

09年入社の薮崎が思い起こしたのも、やはり11年の大震災だった。震災直後は自粛ムードが広がり、被災地以外を発着する便も旅客が大きく減った。当時の自粛ムードは数カ月で収まったものの、今回は未知のウイルスが相手なだけに、先の見えない不安感に襲われる。

空港のグランドスタッフたちの一時帰休が始まったのはその頃だった。国内線・国際線ともに大幅に需要が減退し、運航便数を減らすことになった。そうなればグランドスタッフの業務量が減り、通常通りの人員を出勤させても手持ち無沙汰となってしまうからだ。

通常、グランドスタッフはシフトを組みながら月に20~21日程度出勤する。成田で働く白井は一時、勤務間隔が1週間ほど空くこともあった。「次に出勤したときにちゃんと対応できるのだろうか」。特殊な状況下での1週間の「休み」は白井を不安に陥れた。

空港で働くためには日々変わる各国の入国規制に関する情報を頭に入れておく必要がある。しかし、休んでいる日に会社から支給されているタブレットを使って「予習」することもできない。税金が原資である雇用調整助成金の不正受給などといった疑いがかからないよう、ANAHDは「休業日は業務に関係することを一切しない」というルールを徹底していた。

一時帰休中のスタッフをいかにマネジメントするか

羽田の薮崎は少し事情が違った。

休業日数は多くて月5日程度。国際線と比べれば、減便幅や旅客数の落ち込みが抑えられていたからだ。それでも、同僚の中には出勤日数が通常の半分以下に落ち込んだ若い社員たちもいる。特定の業務に当たるのに必要な資格を持つ社員を優先的に配置せざるを得なかったからだ。

2019年6月4日、羽田空港に停泊中のANA機
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現場を統括するだけでなく、若手グランドスタッフの指導なども役割として与えられている薮崎は歯がゆい思いをしていた。十分な経験を積めないままコロナ禍に突入し、大幅な勤務日数の減少に見舞われた若手の中には不安や不公平感を持つ人もいる。しかし、そうした社員を直接励ます機会も減ってしまった。スタッフをどうマネジメントするかという新たな難題が生まれていた。