正しい情報を伝えることこそが大事
社員の不安を最小限に抑えるため、片野坂は「インサイダー以外の情報はしっかりと伝える」ことを意識した。メッセージの中では4月の収入見通しが計200億円にも届かないこと、一時帰休によって月10億円ほどのコスト削減効果があることなど、業績の厳しい現状と様々な打ち手の効果を具体的な数字を交えながら説明していった。
「危機感をあおってはならないが、正しい情報を伝えることこそが大事」。
こうしたスタンスを取る片野坂は、メッセージの中で「雇用は必ず守る」との姿勢も引き続き強調する。欧米航空会社などでは既にレイオフ(一時解雇)などのリストラ策に動き出したところも多かった。それだけに、社員に安心して働いてもらう、あるいは休んでもらうためには重要なメッセージだと考えたわけだ。
その一方で、賃金・賞与カットの可能性にもこの時点で踏み込んだ。3月の社員あてメッセージでも一般社員に様々な協力を求める可能性に触れていたが、既に役員報酬や管理職の月例賃金カットが始まる中、ゴールデンウイーク明けから労働組合との協議を始めると明かした。現に、このメッセージの発信と前後して、ANAは20年度の一般社員の夏季一時金を19年度比で半減させる方針を固め、労働組合に提案している。
コロナ禍の先が読めない中、ANAHD経営陣が取りうる手段は、資金調達という「輸血」と、コスト削減という「止血」しかなかった。生命をつなぐための奔走。それは、損益計算書やバランスシートの上ではなく、キャッシュフローを巡る戦いだった。