「オーラルフレイル」対策と健康寿命
日本が高齢化社会と言われるようになって久しいなか、ご自身やご家族の健康寿命をできるだけ延ばしたいとお考えの方が多いのではないでしょうか。
健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことで、2019年の統計によると、男性は72.68年、女性は75.38年となっています(第16回健康日本21(第二次)推進専門委員会 資料3-1健康寿命の令和元年値について「健康寿命の推移」 )。国も健康寿命を延ばすことを重要な課題と位置付けており、健康な状態と要介護状態の中間である「フレイル」への対策の必要性を指摘しています。
フレイルとは、fraily(虚弱)の訳語です。加齢により身体・認知機能などが徐々に低下するのは避けられません。ですがフレイルは、まだ自分の意志でコントロールができる自律性があり、この段階で適切な対策をとれば健康な状態に戻ることができます。
フレイルはさまざまな要素が関係して進行しますが、食べ物を噛む(咀嚼)機能や飲み込む(嚥下)機能の低下は、全身のフレイルの前兆として捉えられており、特に口腔機能に着目したフレイルは「オーラルフレイル」と呼ばれています。
高齢者の社会的孤立にもつながる
オーラルフレイルを理解する際に大事なのは、オーラルフレイルという概念の範囲が単に口腔内の衰えだけを指すのではないことです。
口腔内の衰えといえば、直接的には噛めないことや飲み込めないことをイメージすると思いますが、食事の際にむせる、滑舌が悪くなることも口腔の衰えに該当します。これらが積み重なると、食べられるものが減ったり、食事を敬遠してしまったり、コミュニケーションをとることが億劫になったりしますが、こうした間接的な影響もオーラルフレイルに含まれます。
そして、十分に食事がとれないことで栄養が偏ったり、身体活動量が減りサルコペニア(筋肉量の減少)が進行したり、精神的な落ち込みが生じたりするなど、社会的に孤立する原因ともなります。咀嚼する力が衰えると、あごを動かさなくなるので刺激が減って、脳への血流が減少し、認知機能の衰えを加速させることも指摘されており、さらにフレイルが進行するという悪循環に陥ります。つまり、オーラルフレイルは高齢者の社会性低下の入り口にもなるのです。
高齢者2044人を45カ月間調査したところ、口腔内が健常な人と比べてオーラルフレイルの人は、要介護認定となった率が2.45倍、死亡については2.09倍となりました。また、身体的フレイルになった確率は2.41倍、サルコペニアは2.13 倍でした(東京大学 田中友規、飯島勝矢ら. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018)。