「歯医者は悪くなってから行くもの」では危険
前述の通り、オーラルフレイルは噛めないなどの口腔環境が引き金となりますから、健康な歯を維持することが予防の第一歩だといえるでしょう。
厚生労働省の統計で日本の歯科検診受診状況を確認してみます。2016年度の調査では、20〜49歳までの歯科検診受診率は50%を下回っています。特に男性の受診率が低く、20代では37.8%、30代では36.6%、40代では44%となっています(厚生労働省 平成28年国民健康・栄養調査)。
最近では予防歯科という言葉も浸透してきていますが、依然として「歯医者は悪くなってから行くもの」と考えている方も多いようです。ですが、定期的に歯科検診を受けメンテナンスを続けた方と、症状のある時のみ受診した方とでは、将来の残存歯数に大きく差が出ることもわかっており、良好な口腔環境を保つためには定期的な受診が望まれます。
歯を失う原因、虫歯と歯周病
日本人が歯を失う原因の多くは虫歯と歯周病です。虫歯、歯周病はどちらもプラーク(歯垢)のなかに含まれる細菌が原因となります。
虫歯は、プラークに含まれる虫歯菌の作り出す酸が歯の表面のエナメル質を溶かすことから始まる歯の病気です。周りの健康な歯に影響が出る、修復が困難であるなどと判断された場合には抜歯に至ることもあり得ます。ですが、日々の歯磨きでしっかりとプラークを除去すること、虫歯菌の栄養となる糖分の摂取を控えることなどで予防できる病気でもあります。
歯周病は、歯周ポケットにたまったプラークに含まれる歯周病菌が引き起こす歯茎の病気です。歯周ポケットの深さが4ミリ以上となると歯周病の疑いが出てくるとされています。軽度の場合は歯肉炎(歯茎の腫れや出血が見られます)、病気が進行すると口臭が強くなったり歯茎が下がって歯が長く見えたりするようになります。歯茎から膿が出る・歯がぐらつくなどの重度歯周病の症状が出るようになると歯槽膿漏とも呼ばれます。
重度歯周病にまで進行すると、影響は歯茎だけにとどまらず、歯を支える骨(歯槽骨)にまで及びます。歯周病の症状である歯のぐらつきは歯周病菌が歯槽骨を溶かすために生じ、最終的には歯が抜け落ちることとなるのです。
歯周病は、口腔内の疾患ではありますが、実は口の中だけの問題ではありません。多くの全身疾患や症状の原因となることもわかっています。そうした例をいくつかご紹介します。
・歯周病が糖尿病を悪化させる
以前から、糖尿病患者が歯周病を合併することが多いと言われていましたが、最近では糖尿病と歯周病は相互に関係していることもわかってきました。体内に入り込んだ歯周病菌が、インスリンの働きを阻害するため、血糖値のコントロールができなくなり、糖尿病を悪化させます。歯周病の治療が糖尿病の改善につながることも判明しています。