「夕張市で老衰が急増」の謎

老衰は病気ではなく、自然に枯れていく「状態」です。

国で定められた死亡診断書の「死因の種類」の1番には、「病死及び自然死」と書かれています。老衰は自然死ですから、立派な死因の1つなのです。

これまでは日本人の死因のかなり下位に位置していましたが、近年は上位に上がり、いまは3位にまでなっています。

しかし夕張の場合は、増え方が違いました。図表4をご覧ください。

財政破綻で病院がなくなり検査が行き届かないため、きちんとした診断ができずに「老衰」が増えたのでは? といぶかる人もいるようです。

しかし検査を受けられる/受けられないは、ほとんど関係ありません。

このグラフには、実はもっと大事なことが隠れています。

老衰の診断をつけるな

それは、「死亡診断書に老衰と書くのは、実は簡単ではない」ということです。

家庭医や、患者の生活にしっかり寄り添う医師でないと、実際に老衰という診断は付けにくいのです。

救急車で運ばれてきた95歳のおじいちゃんがその数時間後に病院で亡くなったとします。

それまで寝たきりだったとしても、その病院の救急治療室で初めて診た救急医にとって「老衰」とは言いにくいものです。

事実、私も若い頃は、先輩医師に「老衰の診断をつけるな」と指導されました。

病院医療、専門医療では、老衰はほぼ「敗北」を意味するからです。

老衰は病気ではないので、ご本人やご家族に受け入れてもらうためには、医療側と患者・家族側との間に信頼関係が必要です。

ご家族にとっても、受け入れるために時間と覚悟が求められます。

長い老いの過程を共有して、ご本人の思いを聞き、ご家族との信頼関係を築く。

そうした過程を経た医師でないと、なかなか「老衰」という診断はできないのです。