軍は、ユーザーがどの部隊に所属しているかなどをある程度特定し、情報の信頼性を精査しているとみられる。そのうえで、前線からの有益な情報源として発言を事実上黙認している形だ。事実、ユーザーのなかには現役兵に加え、退役した元将校など知識豊富な人物も多い。

こうしてTelegram上の情報に便乗するロシア軍だが、思わぬ落とし穴が待っていた。軍が対応の参考としたとの評判が広まると、ロシア軍形勢不利を伝えるいくつかのチャンネルはいっそう一般国民の信頼を得る結果となった。

このようなアプリを通じた情報公開は、以前の戦争であれば考えられなかった。状況を特異だとみるCEPAは、「戦争から3カ月で、まったくもって前代未聞の事態が巻き起こった。ロシア軍内部に、検閲がなく、防衛省の管理も届かない議論の場が出現したのだ」と驚きをあらわにしている。

戦勝記念日のパレードで軍事力を誇示するはずが…

Telegramは侵攻直後から情報収集手段として活用されてきたが、5月の軍事パレードが普及に拍車をかけるきっかけを作った。

ロシアが毎年5月に行っている戦勝記念日のパレードは、国民に軍事力を誇示し、兵士の士気を高揚させる機会として長年機能してきた。だが、ウクライナ侵攻の今年、この一大行事は裏目に出る結果となる。CEPAは、軍事機密の暴露がTelegram上で飛び交うことになったきっかけのひとつが、この軍事パレードだと指摘している。

今年も赤の広場で5月9日に行われたパレードは、例年と異なる体制が目を引いた。士官学生らに続いていざ正規軍の登場となると、地位ある将官らの姿がどこにもみられなかったのだ。行進を率いていたのは、中佐クラスがせいぜいであった。

5月9日、ソビエト勝利記念日に行われる軍事パレード=モスクワ
写真=iStock.com/Mordolff
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例年パレードが盛り上がりをみせる戦車の車列の登場となると、昨年までとの差異はいっそう歴然となる。率いていたのは中尉らであり、例年よりかなり見劣りする編成だ。原因は火をみるよりも明らかだった。ウクライナへの動員で、軍人がまったくもって足りていないのだ。

CEPAは述べる。「軍隊の変わりようは極めて明白であり、よってその目でみたことを人々が話したがるのも無理はない話だ。だが、そのような話題を、いったいどこで議論できるというのだろうか?」

そこで白羽の矢が立ったのがTelegramというわけだ。メッセージは携帯端末から送出する段階で暗号化されるため、通信経路の途中で政府の検閲を受ける心配がない。

信頼失墜のマスメディアに代わり、Telegramチャンネルが台頭

ジャーナリストが「特別軍事作戦」について論じることが違法となったロシアでは、Telegramが貴重な議論の場となった。報道規制の厳格化とともにもともとロシアで注目を集めてきたTelegramだが、戦勝記念日の異常事態を受けさらに参加者を惹きつけることとなったようだ。