親が信頼すれば子供は考えて行動する

23日夕方、午後の2回戦も辛勝した試合後、二つの家族に棚原宅に立ち寄ってもらい話を聞いた。冒頭紹介した熊野、西村両選手と両親。

熊野健史・晶子・瑛太。
撮影=森本真哉
熊野健史・晶子・瑛太。

熊野瑛太は大学3年と高校3年の兄、中学2年の姉との4人兄姉きょうだい。2人はリトルウルフOBだ。小学1年で入部した瑛太は、週末の練習場所などをおばちゃんに電話で尋ねた際に、とても緊張したと振り返った。大人にかける初めての電話で、母親は何も教えてくれなかったからだ。

「最初は何て言えばいいのか、わからなくて……。年長者が電話を切ってから、自分が切るのが礼儀やというのも、そのときに教わりました」

副キャプテンを務める西村多央は、中学3年の兄と小学5年の妹の3人兄弟。「中学や高校で寮生活になっても、自分のことを自分でできたら、その分(野球の)練習時間も増やせると思います」と、将来も見すえた答えを口にした。2人とも人見知りしてモジモジなどせず、胸を張ってはきはきと答えていた。

瑛太の母親である熊野晶子は、自身が2人姉妹で育った分、長男の子育てには当初戸惑い、棚原の教えをもとに、親子で頭の構造を変えてもらっていったと話す。

ユニフォーム洗濯中の瑛太。
ユニフォーム洗濯中の瑛太。(撮影=森本真哉)

「瑛太は朝起きるのが苦手です。でも、私が口やかましく起こすよりは、目覚まし時計のアラームを自分でセットして寝ると、起きてからも割とてきぱきとやるんですよ。まっ、目覚ましで起きるようになったんは、2日前からなんですけどね」

……えっ! 話にオチをつけようとするのは大阪人の習性。晶子は知らん顔で瑛太が遊びに出かける際の、自身の取り組みに話題を変えた。

「私が『どこへ行くの?』『誰と行くの?』と、つい根掘り葉掘り聞くと、子供も高学年になると嫌な顔をします。だから子供を信頼して、『夕ご飯は7時からやで』とだけ伝える。すると、7時前にはちゃんと帰ってきて、どこで誰と遊んできたとか瑛太から話してくれます。『あっ、おばちゃんの言う通りやったわ』って」

大学生の長男も先日アルバイト先で、大人への言葉遣いや挨拶がきちんとできると褒められたという。

「チームで教わったことで、本人は当たり前やと思ってたけど、他の学生が意外とできないから、『おばちゃんのおかげやな』と気づいたって、先日話してくれました」(晶子)

成果がすぐに見えない分、自立心の育成はわかりにくい。だが、普段の生活態度と野球のプレーはつながっているという見方もある。