高度な練習が、基本の大切さを教える
23日午後から2試合目を戦う6年生チームを離れ、棚原は大阪府吹田市内で予定される小学3年生以下の練習に向かった。自宅近くの小学校の運動場での、3時間の練習中に驚かされたことが二つある。
まずは2人1組のキャッチボール後に行われた、守備のランダウンプレー練習。2人の選手が塁間で走者をはさみ、ボールを持った選手がタッチアウトにするプレーだ。投手役の選手が三塁手に牽制球を投げ、三塁走者が飛び出し、本塁との間にはさまれた設定で練習が反復された。まだ1対1のキャッチボールさえうまくできない選手が、通常行うレベルの練習ではないはずだ。
ところが、反復するうちに捕手役と三塁手役の送球が正確さを少しずつ増し、逃げる走者に見事にタッチする回数が増え、子供たちから歓声が上がった。そうか、鬼ごっこの要素もある練習だと気づかされた。
「確実にアウトにするには、走者をよく見て、相手に正確なボールを投げるコントロールを身につける必要があります。一見地味なキャッチボールという基本に、子供たちに緊張感をもって取り組ませるためのツーランク上の練習です。でもね、ランダウンプレーの練習後に、再びキャッチボールをさせると、とんでもない悪送球を投げよる。まだ3年生やと集中力が長く続かへんねん」
棚原はそう言って苦笑した。
一方で、見学中の母親たちに近づくと、棚原は子供たち数人が食事時にお箸をグー握りで使っていた、と話し始めた。茶碗を持たない片手食べにも言及。社会人になって上司や取引先の人と会食する際、恥をかくのは本人だから、小学生の間に直しておくべきと強調した。何度も反復して体に覚えこませるのは、野球の基礎練習も礼儀作法も同じだから。
小学3年生部員の母親に話を聞くと、
「おばちゃんから『子供に口うるさく言わず、何事も自発的にやらせなアカン』と言われ、翌週の前半は私も口にチャックができているんです。でも後半になるとゆるんできて、つい口出ししてしまいます」と、正直に明かしてくれた。子供によるユニフォームの洗濯について尋ねると、ミニ洗濯板派や洗濯ネットに入れての手もみ派などがいた。