生活態度と野球のプレーの共通点
多央の母親である西村洋子は、おばちゃんの言う通り、親が普段細かく指図しないと動けない子に、野球の試合でだけ自分で考え、素早くプレーしろと言っても無理と話す。「宿題や、学校に翌日持っていくものの準備など、自分で考えてさっさとできなかった頃の多央は、野球の守備練習でも一歩目が遅い(一歩前に出てボールを素早く処理すること)部分がありました」(洋子)
父親の友宏も元野球少年だが、日常生活と野球とのつながりなど、当時の自分は意識したこともなかったと率直に語ってくれた。
チームは平日練習をしない。野球や家事以外にも友達と遊んだり、ゲームをしたり、もっと言えばダラダラしたりするのも、小学生の間にやらなあかんこと。それも含めていろいろなことを経験して大人になっていくから、野球だけを子供に強要してはいけないという、名誉会長の棚原長一の考え方に根ざしている。
そのシンプルな考え方にも友宏は影響を受けていると話す。
「僕も、他人に迷惑をかけないとか、命を危機にさらすようなことはしないなどに限定すれば、子供を叱る回数は自然に減っていきました」
それまで黙って聞いていた棚原が、ここで口を開いた。
「多くのお母さんたちは、週末の家事を手伝わない旦那さんをボロクソに言うのに、自分の子供には『勉強しろ』とは言っても、『家の用事を手伝え』とは言わない。小学生で手伝わないと、中学生で反抗期が来たら絶対やりませんよ。その子がそのまま社会に出たら、旦那さんの二の舞になるとわかるはずやのに、なぜかそこがつながらない」(棚原)