「四球に対する嫌悪感」が増幅された

しかし、先の指導者や、同様のことを述べる解説者は、このようなデータをご存じないだろう。

そういった方々の脳裏には、先頭打者をヒットで出して失点した場面より、四球で出して失点した場面が色濃く焼きついているのに違いない。

ヒットを打たれるのは、捕手の配球や、守備陣の不備が原因の場合もあり、必ずしも投手だけの責任ではない、という考えもある。

それに対して、四球は投手本人がしっかりコントロールすれば防げるもの、という考えがある。

だから、よけいに四球に対する嫌悪感が増幅されるのだろう。

「無死満塁は点が入りにくい」はウソ

プロ野球ファンの間では「無死満塁は逆に点が入りにくい」という言説がまことしやかに語られている。

しかし、2021シーズンの「状況別の得点期待値」を整理した図表5と、同じく2021シーズンの「状況別の得点確率」を整理した図表6を見ると、実際には無死満塁からの得点期待値は2.237点と、24種類の状況で最も高い。

さらには、得点確率も84.5%と、2番目に大きな確率である。

無死満塁は得点が入りやすい状況なのである。

「無死満塁で点が入りにくい」というのは、「人はポジティブなできごとや情報よりも、ネガティブなできごとや情報のほうに注意を向けやすく、またそれが記憶に残りやすい」という、心理学におけるネガティブバイアスの一種であろうと想像される。

応援するチームが無死満塁の状況になれば、大量得点のチャンスとばかり大きな期待をかける。

その期待が裏切られて無得点で終わってしまうと、その経験は無事に得点が入ったときよりも記憶に残りやすいのだろう。

データからは、そのようなことは84.5%の余事象の確率である15.5%しか起こらないにもかかわらず。