「あの役を演じて評価されたいとか、そういうのは一切ない」
「なので、演技を見つけていくんじゃなくて、人としてどう生きるかを見つけていくの。私にとっての役づくりはそれに尽きますね」
役づくりとは、すなわち、自分の人生をどう生きるか――。
誰の真似でもない、誰とも同じでない。希林さんだけの言葉に、そして希林さんが人生を捧げた女優という職業にシビれさせられた。
では、女優という職業を選んでよかったと思う瞬間はどんな時でしょう。過去、日本映画の多くの賞を総舐めした女優の喜びとは。
「賞や評価のために、演じるってことはないですね。あのね、今まで身過ぎ世過ぎで演じてきたからあの役を演じて評価されたいとか、あの役を仕留めて認められたいとか、そういうの一切ないんです。いただいた仕事で自分が演りたいと思ったものだけ、って感じ。人の評価に合わせるのではなくて、自分に合わせていきたいの」
人の評価に合わせるのではなく自分に合わせて生きていく
人の評価に合わせるのではなく、自分の評価に合わせて生きていく。そう言っておだやかに笑った。
もちろん、半世紀、女優として生きてきた希林さんだからこそ、たどり着けた境地。それでも、空気を読んだり周囲の顔色を窺ったりしている僕たちに対して、「大切なのは、他人と歩調を合わせることだけではない」と教えてもらえた。
そのインタビュー記事が紙面に掲載されたのは2018年9月14日。その翌日、希林さんは息を引き取られた。
今振り返っても至近距離で対面に座った希林さんからはそんな兆しはまるっきり感じられなかった。前夜にニューヨークに到着され時差でお疲れになっているのに、僕の「お元気そうですね」という言葉からインタビューは始まった。