情報流出への懸念は当初の政府対応に端緒があった

政府が音頭をとっても、マイナンバーカードが国民の半数にしか普及しないのはなぜなのか。やはり、利便性の問題だけではなく、「情報」が流出することへの漠然とした懸念があるのだろう。

これには、マイナンバーカードを発行し始めた当初の政府の対応のマズさがあった。「マイナンバーは他人に絶対に知られてはいけない」、「マイナンバーカードを見られるのも危ない」という意識を国民に植え付けてしまった。最近は政府の説明も大きく変わっているのだが、今でも「マイナンバーカードは貴重品だから持ち歩かないで金庫にしまっておく」という高齢者が少なからずいる。

河野デジタル大臣が自ら発信している「ごまめの歯ぎしり」というメールマガジンの10月18日号は、「マイナンバーの疑問に答えます」というタイトルだった。

Q&A方式で書かれていて、冒頭の質問は「マイナンバーカードは、持ち歩いてもいいものなのか、それとも家の金庫にしまっておくものなのですか」だった。答えは「持ち歩きましょう」。ただし、銀行のキャッシュカードやクレジットカード同様、落としたり無くしたりしないように、というものだった。マイナンバーを人に見られても大丈夫、というQ&Aもあった。

また、仮にマイナンバーカードを落としたとしても、マイナンバーカードのICチップに入っているのは、名前、住所、生年月日、性別、顔写真、電子証明書、マイナンバー、住民票コードだけで、医療情報や税・年金といった個人情報は入っていないので、暗証番号を知られない限り、悪用されることはないとも回答している。

現況のITシステムはサイバー攻撃に耐えられるのか

おそらく、大臣自身にそう言われても安心できない、という人も少なくないだろう。

そんな最中、10月31日に世の中を震撼させる事件が起きた。大阪府の「大阪急性期・総合医療センター」がサイバー攻撃を受け、電子カルテシステムがダウンした結果、病院の診療がストップする事態が発生したのだ。

薄暗い部屋でコーディングする人の手元
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身代金要求型のコンピューターウイルス「ランサムウェア」による被害と見られ、復旧には相当な時間がかかると見られている。この事件を機にSNS上などでは「マイナ保険証への移行は止めるべきだ」といった意見が強まっている。マイナンバーカード自体に情報が保存されていなくても、連携したシステム自体がトラブルを起こした時に、マイナンバーカードだけで大丈夫なのか、現行の保険証を残した方が安全ではないのか、というのである。

情報をデジタル化し一元管理しようとすれば、そのバックアップを含め、システムの頑強さが求められる。医療機関の場合、ITの専門人材がほとんどおらず、規模も小さいためIT投資もままならないため、デジタル化が遅れているところが少なくない。逆にそれがハッカーやコンピューターウイルスに脆弱ぜいじゃくということになりかねない。国民の疑念を払拭しないまま、マイナ保険証に突き進むことは難しいだろう。